日展入選の平岩智子さんのバティック展、7月に東京・麻布で開催

日展入選の平岩智子さんのバティック展、7月に東京・麻布で開催

「インドネシアの風物を表現するには、一番合っている染め方なんでしょうね」

 どこまでも続く段々畑、間にはバナナの葉やヤシの木が見える。手前には稲刈りをする人たち。黄色と緑・青のコントラストが美しい。バリ島の懐かしい原風景が、柔らかくも、はっきりした色彩で描かれている。平岩智子さんのバティック画だ。

平岩智子さんと日展入選作「トリ ヒタ カラナ(三つの調和) 稔り」(写真は全て平岩さん提供)
平岩智子さんと日展入選作「トリ ヒタ カラナ(三つの調和) 稔り」(写真は全て平岩さん提供)

 平岩さんは東京藝大で染織を専攻した。その後、結婚し、夫のインドネシア駐在で1988〜95年、ジャカルタとスラバヤに住んだ。そこでチャンティンを使った蝋描きと染色を習い、バティック作品を作り始めた。

 ジャカルタの博物館で、結婚式の様子を描いたバティックを見て、「人物が活き活きと描かれており、楽しい感じ。面白いな、こういうのを描いてみたいな」と思ったと言う。

 「インドネシアの日常の風景が面白くて、それを『描き留めておきたい。バティックにしたらいいかな』と思ったのが、作品作りの最初」と語る。インドネシアの風物を題材にした3部作は、日本の雑誌「染織α」に掲載された。

ジャカルタの物売りを描いた「ジャカルタの朝」(写真はポストカードより)
ジャカルタの物売りを描いた「Selamat Pagi Jakarta(おはよう、ジャカルタ)」(写真はポストカードより)
赤い屋根の街並みなどを描いた「こんにちはスラバヤ」(写真はポストカードより)
赤い屋根の街並みと人々を描いた「Selamat Siang Surabaya(こんにちは、スラバヤ)」(写真はポストカードより)

 日本に帰国後もバティック制作を続け、2020年の日展で「光の門を行く」が初入選した。2023年にも「トリ ヒタ カラナ(三つの調和) 稔り」が入選。バティックの道具や材料はインドネシアで入手し、自宅で蝋描きして、染色は風呂場でしている時期が長かった。題材は一貫して「インドネシア」だ。

平岩智子「光の門を行く」
バリの割れ門を通る女性たちを描いた「光の門を行く」(写真はポストカードより)

 平岩さんにバティックの面白さを聞くと、「染めた時の色の深み、出来上がった時の意外性が大きい。インドネシアの風物を表現するには、一番合っている染め方なんでしょうね」。主な染料はナフトールを使い、それもまた「インドネシアの風物に合う色」だそう。

「初めてお会いしたのに一緒に食事し、車を手配してくれた」賀集さんの思い出

「染織α」に掲載された平岩さんの記事
「染織α」に掲載された平岩さんの記事

 平岩さんと賀集由美子さんには、いくつか経歴的にもオーバーラップする所がある上に、「染織α」に載った平岩さんの写真を見ると、賀集さんと雰囲気がよく似ているのだ。逆に、賀集さんが朝日新聞に掲載された時、平岩さんは「義母に、私と間違えられました」と言う。

 平岩さんと賀集さんの出会いは2014年11月のことだ。平岩さんは日本から「バティックの街」と呼ばれるプカロガンへ行きたかったのだが、安全な行き方がわからず、「行き方を教えてもらおう」と、まだ会ったことのなかった賀集さんにメールを出した。賀集さんはその時、日本に一時帰国中で、平岩さんがチレボンへ入る直前に賀集さんもチレボンへ戻り、メールを見た。そして、平岩さんがチェックインしたチレボンのホテルまで、夫のコマールさんと2人で来てくれた。

 そのまま3人で夕食へ行き、「中華料理をご馳走になった。一人だったら絶対、ナシゴレンしか食べていない。賀集さんのおかげで、おいしいものが食べられた」と平岩さん。プカロガン行きの車も「手配します」と言ってくれ、翌日にトゥルスミのアリリ工房へ一緒に行き、ワワンさんに車を出してくれるようお願いしてくれた。「初めてお会いしたのに、そんなことをしてくれた」と平岩さんは思い出を語る。

 「染織α」は賀集さんも愛読していた雑誌だった。「(平岩さんの)記事を読んで、すごく興味を持ちました」「個展をされる時にはお知らせくださいね」と言われたという。 

 「賀集さんには、日展に入選したことや個展のご案内もできませんでしたが……」と平岩さん。2025年7月、東京・麻布のギャラリーで個展を開く。インドネシアで制作した3部作のほか、日展に入選した2作、最新作「ディエン高原の朝」などを展示する。バンダナ、バッグ、針刺しといったバティック小物も展示販売する予定だ。

 期間中、平岩さんは毎日在廊する。バティックの話、日本でのバティック制作について、賀集さんの思い出などを聞けるかもしれない。「『豆源』(麻布にある菓子屋)に来るついでにでも、是非来てください」(平岩さん)。

■平岩智子 BATIK 染色展
2025年7月17日(木)〜21日(月・祝)
 11:00〜19:00(21日は17:00まで)
Palette Gallery(東京都港区麻布十番2-9-4)
https://www.instagram.com/palettegallery10ban/
※東京メトロ南北線4番出口または都営大江戸線7番出口から、徒歩3分
※「赤い靴の少女・きみちゃん像」のある公園の前

山の上まで続く段々畑、チャンディを描いた「ディエン高原」がお気に入りの最新作。手前の針刺しは、自分で籐を編んで作ったもの
山の上まで続く段々畑、手前にチャンディを描いた「ディエン高原の朝」(上)が最新作。段々畑の色彩の多様さが、まさにインドネシア。ブルーと黄色を重ねて緑を出している。手前の針刺しは、自分で籐を編んで作ったもの

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