ねこは異次元へのポータル 「ジャワ島で猫の絵など描きながら思ったこと」[ねこの本]

ねこは異次元へのポータル 「ジャワ島で猫の絵など描きながら思ったこと」[ねこの本]

 最高の本である。石井泰美さんのねこの絵の画集であり、小気味よく過不足ない文章が絵の理解を助ける。泰美さんのねこの絵を買うチャンスはなかなかないが、この画集ならたった12万ルピアで買え、キャンバスの質感から筆の跡まで、じっくり眺めることができる。

 泰美さんの絵がちょっと怖く感じるのは、「かわいい」だけではない、不思議な存在である「ねこ」というものを、独自の目で描写しているからだと思う。「かわいすぎず、ファンタジーやファンシーにならず、不気味にもなりすぎず、程よくマイペースでミステリアスでつかみどころのない、達観したような、あの猫の感じ」と書かれているが、まさに、そういうねこなのだ。

目、口、耳、毛の質感。ねこそのもの
目、口、耳、毛の質感。ねこそのものだ

 ねこの絵は、もう、ねこそのもの。そして、「猫最強説」「猫は強いのだ 龍と匹敵するぐらい」とか「裸で猫ベッドに横たわってみたい」とか、思わずニヤリとするコメントもある。そして、「三途の川」の連作は、ねこ飼いにとっては憧憬のイメージだ。

私が描く猫は、私にとってはあの世とこの世の境界を行ったり来たりする道先案内のような存在である。この世で出会い別れた彼らの魂と、いずれその境界線で再会できるのではないかと空想を巡らす。(三途の川)

石井泰美さん

 表紙絵にもある三途の川のねこは、まるで温泉に浸かっているみたい。気持ち良さげにリラックスしている。

 賀集由美子さんファンとしてうれしいのは、「亡くなった友人との幻のコラボ」と題し、賀集さん追悼の「ペン子ちゃんトリビュート展」に出された絵が全て収録されていることだ。現在、これらの絵は、日本やインドネシアなど、バラバラの人の手元にあるのだが、ここで再び、連作の揃った姿を見られる。

賀集由美子さん追悼の作品。右ページは、ボロブドゥール寺院を背景に、手をつなぐペン子ちゃんとジャワねこ先生
賀集さん追悼の作品。右ページは、ボロブドゥール寺院を背景に、手をつなぐペン子ちゃんとジャワねこ先生

 賀集さんのキャラクターである「ペン子ちゃん」と「ジャワねこ先生」の、泰美さんなりのアレンジなのだが、正直言って「ジャワねこ先生」のねこの描き方は、賀集さんよりもうまいと感じる。賀集さんはねこをキャラクター化して「かわいさ」を全面に出しているが、泰美さんはそれをリアルに引き戻している、というほかに、賀集さんは犬の方がお好きだったようで、それが絵に出ているとも感じる。

 この本の中で特に私のお気に入りの絵は、背中の毛を逆立てたねこ「Cute Intimidation」(かわいい威嚇)、ベトナムでのワークショップで描いたという、ねこと犬が対になった、日本画的な「Dalat」(ダラット)。ボロブドゥールのストゥーパを「ビューン、ビューン」と飛ばしているねこも笑える。

 「猫は先生だし、メッセンジャーだし、異次元へのポータルだし、インスピレーションの源泉だし、道先案内人だし……」(おわりに)という言葉に膝を打つ。

「ジャワ島で猫の絵など描きながら思ったこと」

ねこ度(5が最高)
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ねこ好きへのお薦め(同)
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ねこコメント
ねこ100%の本で、それにインドネシア(ジャワ)テイストが加わります。

石井泰美「ジャワ島で猫の絵など描きながら思ったこと」(Limanjawi Art House、2025年)
12万ルピア

※トコペディア「Limanjawi Art House」で購入できるが、現在、品切れ中

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