久しぶりにインドラマユのアアットさんの家へ行ったら、奥が大改造されていた。土間だった作業場がタイル張りになり、金魚の水槽やスイングチェアまで置かれたくつろぎスペースに。その一角に蝋描きの場所があって、心落ち着かせる蝋のにおいが充満していた。
以前は薄暗い部屋の中に座って布を広げて見ていたのだが、これからは、半屋外のような明るい場所で布を見られるのはうれしい。山に置いてくれた布を広げてみると、新作はあまりないようだったが、一枚、見たことのないモチーフがあった。
「このモチーフは何?」と聞くと、「スンギガン」(Sunggingan)と言う。聞き取れず、ノートに書いてもらった。アアットさんの説明では、「sungging」は「上る」「背負う」といった意味。2羽の鳥がお互いを背負っているモチーフだと言う。これを聞いて、買うことをほぼ決めた。
さらに、アアットさんは「これはユミコ(賀集由美子さん)がくれたんだよ」と言って、バティックの服を持って来た。賀集さんがよく着ていた、2種類の布を上下に継ぎ合わせて胸元で絞るスタイルのワンピース。下の部分に使ったバティックが「Sunggingan」で、アアットさん自身が以前に蝋描きしたものだそう。
「(いなくなるという)虫の知らせでもあったのかなぁ。突然、くれたんだよ」。そういう話を聞くと、なおさら、同じモチーフである、このバティックを買うことは決まりだ。
その時の「自分のテーマ」で、バティックを買うことがよくある。今回、「これは、『倶(とも)に』のバティックだ!」と感じた。中島みゆきの最新アルバムの中にある「倶に」。「倶に走りだそう。倶に走り継ごう」。いろんな人との「倶に」が想起されるのだが、私にとっては「賀集さんと『倶に』」でもある。
しかし、このバティック、その場で「これが背負い合う二羽の鳥」と説明された時には、確かにそう見えたのだが、家に帰って飾ってみると、どこがどうなっているのやら。花・葉と鳥が一体化していて、花・葉かと思ったら、翼を広げた鳥だったり、葉っぱだと思ったら、二羽の向かい合う鳥だったり。つくづく、インドラマユの伝統文様は不思議だ。不思議の世界へと誘われる。
「Sunggingan」
アアット作
103cm x 240cm
2023年3月購入
50万ルピア(値段は購入当時)