安藤彩子さんの「運命のサカナ柄」以来、私の中で「インドラマユの魚バティック」ブームが続いている。漁師のジャズリさんとエディさんの工房が共同制作しているバティック。一枚一枚が面白くて、目が離せないのだ。

バティックとして非常に精緻なわけではない。蝋で描かれた線が薄かったり、蝋が割れて失敗していたりもする。そして、インドラマユのバティックにしては値段が高く、もう少し足したらチレボンの非の打ち所のないバティックを買えてしまうのが微妙なところ。しかし、なんというか、非常に「ユニーク」なのだ。その際立ったユニークさに引かれる。
私が最初に買ったのは、「漁師が描いたインドラマユの船」バティック。そして2枚目がこちらの、エディさんが日本語で「うみ」とキャプションを付けてインスタグラムに写真をアップしていたバティック。これは写真を見ただけで買うことを決め(エディさんは「次にインドラマユへ来た時、実物を見て決めた方がいいんじゃない?」と言っていたが)、ジャカルタの家へ送ってもらった。
「これは絵として、壁にどーんと飾る」と決めていた通り、日の当たらないリビングの壁に貼ってみた。

海には魚がいっぱいだ。そのリアルな造形とユーモラスな表情が「ザ・インドラマユ」のバティック。逆巻く波の上には船2隻。空には黒雲。
面白いのは、波は「境界線」というだけで、海も空も同じように表現されていることだ。海には海藻のような模様、空は「カウン」(七宝つなぎ)と、模様で区別しているものの、ぱっと見、大差はない。インドラマユの漁師の目には、海の中は魚がいっぱいいる豊かな世界。空が目で見えるのと同様、それがはっきり見えているのだろう。

黒雲の強さも目を引く。われわれが雲を眺めて楽しむような、美しさや陰影はない。細かい模様の施された美しい空と海が広がる中で、雲だけは、ひたすら暗い。海の上では、天候が崩れて嵐になるのが非常に恐ろしいことだからなのかもしれない。この黒雲が画面を引き締めるアクセントとなっている。
青一色のバティックに見えるが、色分けして微妙な濃淡が付けてある。非常に複雑な色分けなので、エディさんに「この色分けはどうやってやったの?」と聞くと「いや、普通に、蝋伏せ」と言っていた。ただ、どこを蝋伏せするかは「バティックのテーマを理解していないとできない」ため、できる人は限られるそうだ。

先月、インドラマユへ行った時に出来上がっていた「魚バティック」は数枚。一緒に行った人が「言い方は悪いですけど、『子供が自由に描いた絵』みたいですね」と言っていた。「モダン」なのだが「伝統的」。生活に根差した民芸アート。とても生き生きしていて面白い。「3枚目」を買ってしまいそうだ。



「うみ」
バティック・ビンタン・アルット作
102cm x 243cm
2024年制作
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