ねこ(フレディ)を飼い始めて間もないころ、チレボンの「アリリ工房」を訪ねた。賀集由美子さんとも親しくしていたアリさん、ワワンさん夫婦の工房だ。夫のワワンさんはねこが大好きで、工房には常に数匹のねこがいる。バティック職人さんたちが蝋描きしている横を自由に歩き回り、塀の上から染色する様子を眺め、隙を盗んで家の中に入り込んでは追い払われていた。
工房に、出来上がったすてきなバティックはたくさんあるのだが、ねこのバティックは一つもない。頭の中がフレディのことでいっぱいだった私は、「ねこのバティックはないのか?」と聞いてみた。すると、「個人的に作ったのはある」と言って、出して来てくれたのが、これだ。ワワンさんがねこ好きなため、商品というわけではなく、趣味で絵を描いてバティックにしてみた、という物らしい。そして「フレディにあげる」と言って(!)、下さった。
チレボンお得意の細かいイセン(模様の線描き)は思い切り良くいっさいなし。ねこの造形のかわいさのみにフォーカスした作品だ。しかし、このシンプルさがなんともいい。ねこの顔に描かれたまん丸な目鼻もなんだかおかしくて、眺めていると思わず頬が緩み、吹き出してしまいそうになる。
そして、この写真をツイッターにアップしたところ、すごく気に入って「欲しい!」と言って来られた方がいる。このため、私が仲介者になって、ワワンさんに「同じ物を」と注文した。色は「緑がいいかな」と希望されたので、ワワンさんのアドバイスにより、「背景が薄い緑で、ねこは濃い緑」にした。
しばらくしてから、「いくつか作ってみたけど、どれがいい?」と写真が送られて来た。このように、たとえ注文品が一枚であっても、失敗した時の保険も兼ねて、何枚かいっぺんに作ってしまうことはよくある。この写真が、バティックのアレンジ力を非常にわかりやすく表現していると思うので、一枚ずつ紹介したい。
まず、私が買った物とほぼ同じモチーフの、グレー背景。丸まって寝ているポーズのねこが追加され(気に入ったらしく、やたらいっぱいいる)、間にご飯が一つ、置かれている。ぱっと見て「黒ねこ!」なので、黒ねこ好きにはたまらない。
続いて、背景を紺、ねこを紺とグレーの2色にした物。ねこの体に「・・・・」が入っているのが、なかなか面白いアクセントだ。
次は、注文した「背景が薄い緑、ねこが濃い緑」の物。ねこの体には「・・・・」だけでなく、いろんな模様が入り始める。イセン職人の腕がうずき始めた、というところだろうか。
続いて、「ザ・チレボン」という感じの、細かいイセンをねこの体に描き込んだ物。「賀集さんのねこ」とも表現が似ているが、それよりもさらに凝った模様となっている。毛並みを表しているというより、「模様」だ。下から2番目にいる両端のねこが、頭に何かかぶったように見えるのがおかしい。
最後に、私が買った物とほぼ同じ色の、白黒反転バージョン。ねこのポーズにはバリエーションが増え、これが一番ねこの数が多い。画面いっぱいのねこ。この数ではご飯1個では足りないと思ったのか、ご飯の数は2個に増えている(笑)。
「バティックは一枚として同じ物はない」ということがおわかりいただけたかと思う。どのアレンジも面白く、どれも捨てがたく、どれも素晴らしい。
注文された方に「どれにしますか?」と写真をお送りしたところ、その方とお友達とで全部購入された。
「ねこたち」
バティック・アリリ作
46cm x 46cm(無地の縁を除いた絵の部分)
2019年制作
無料(販売価格は12万5000ルピア)