インドラマユはマンゴーの街。インドラマユ市内には、ジャカルタの「歓迎の塔」のような場所に「マンゴー・モニュメント」が立っている。
ジャワ島のほかの平地とそんなに気候は変わらなく感じるのに、なぜだろうか、マンゴーがよく採れる。ジャカルタから車でインドラマユ県に入ると、「どの家にもマンゴーがあるんじゃないか」というほどに、マンゴーの木が目立ち始める。街路樹もマンゴーだ。ころんと丸い勾玉形の青い実が、文字通り鈴なりになって垂れ下がっている。
季節になると、かごに山盛りのマンゴーが道に並べられるのも、インドラマユの風物詩だ。完熟マンゴーが1キロ2万5000ルピアぐらいからと安い。しかし、インドラマユ市内の果物店でマンゴーは売っていない。買って食べる地元民はほぼいないためだろう。自分の家のマンゴーだけでも食べ切れるかどうか。
バティック職人のアアットさんの家へ行った時にも、庭の木になったマンゴーを切って出してくれた。木が高すぎて実を採るのが大変なので、実は採らずに放置。完熟して地面に落ちたら、拾って食べるそう。まるで栗拾い。なんというぜいたく。
インドラマユ名産のマンゴーは「グドン・ギンチュ」(Gedong Gincu)という種類だ。小ぶりで、オレンジがかった黄色。私は以前住んでいたフィリピンのマンゴーが大好きなので、インドネシアの大きな緑色の「ハルム・マニス」(Harum Manis)は癖が強くて苦手だ。グドン・ギンチュの方がフィリピン・マンゴーに似ていて好きだ。
インドラマユのバティックには、特産のマンゴー柄が多い。手描きでもチャップ(判押し)でも、マンゴー好きなもので、マンゴー柄をよく買ってしまう。その中で「傑作だ」と思うのは、エディさんの工房「バティック・ビンタン・アルット」で作られたチャップ・バティックだ。
台所の入口にじゃらじゃらっと掛けられている、玉のれんのような模様。「・・・・・・・」の間に、丸みのある、つややかなマンゴーの実が挟まっている。非常に調和が取れていて、すっきりしたデザインだ。ちょっと北欧テキスタイル風だと感じてしまう。
そしてこれが、インテリアとしてとても使いやすい。ベッドに掛けてみたら、すてきだった。その写真をエディさんに送ったら、「へえー、こんな風に使えるんだね。考えたこともなかった」と感心している。ちょっとにぎやかな裾の模様は「バティック・シャツ用」だそうなのだが、インテリアとして使っても、ちょうど良いアクセントになる。
「この『・・・・・・・』は何?」と聞いたら「雨粒」で、マンゴーが雨のように降って来ている様子を表していると言う。モチーフの名前は「マンゴー・レイン」(Hujan Mangga)。マンゴーが雨のように降り注ぐインドラマユの人でないと、思い付かないデザインではないだろうか。
デザインの洗練度、マンゴーのかわいらしさ、インテリアとしての使いやすさから言っても、いちおしのインドラマユ・バティックだ。
「マンゴー・レイン」(Hujan Mangga)
バティック・ビンタン・アルット作
112cm x 203cm
2021年購入
12万5000ルピア(値段は購入当時)