「ソロ・ジョグジャ・バティックツアー」でソロへ行った。空港からまずはデザイナーのタティさんのギャラリーへ行き、この日はタティさんが不在だったものの、展示してある高級バティックを見せてもらう。毎回行くたびに「いいなぁ」と眺めているのが、ねこのバティックだ。

その素晴らしさは写真では伝わらないのが残念なのだが、いろんなポーズをしたねこたちが生き生きと布の中に遊び、草木染めの茶色と淡いブルーが絵柄にマッチしている。布地は絹。柔らかい色合いも、絹のしなやかな風合いも、「ねこ」の表現にぴったりだ。値段は5000万ルピア(約45万円)。ねこ好きの友達と「共同購入して、切って分ける? しかし、10人で買っても、10分の1で一人500万ルピアか……。ねこ何匹になるだろ?」と冗談で話し合っている。
その「ねこのバティック」と同じぐらい気に入っているのが「凧揚げ」だ。下に凧揚げをする人たちがいて、上にはさまざまな形の凧。鳥や蝶の形をした物もある。凧と人は細い線で結ばれ、「地面」と「空」、その間に「空間」という構図が素晴らしい。ものすごいのは、この空間全てを、米粒のような模様で埋めていることだ。値段は「ねこのバティック」よりは安く、4500万ルピア(約40万円)。もちろん買える値段ではないのだが、とても「買いたい」バティックだ。

高級バティックを見てから、「買えるバティック」の部屋へと移動する。この部屋にも膨大な量のバティックがあるので、「こういう柄を見たい」とスタッフに言って、出してもらう。「動物柄が欲しい」と言う人がいたので、動物柄を頼んだ。すると、「一面、水牛」、「一面、ウサギ」の2枚が出て来た。高級ねこバティックの「やや安い」バージョンのようだ。それでも値段は1000万ルピア(約9万円)ぐらいと圏外。
ねこ好きの友達が「ねこはないのかな?」と言うので、ダメ元で聞いてみた。ちなみに、以前にも書いた通り、「ねこ柄のバティック」は非常に少ない。そして、たとえあったとしても「かわいくない」のだ(「ねこと書道」のバティック ㊤下絵スケッチの変遷 [100枚のバティック(42)])。
「どうせないだろう」と思いつつ「一応、聞いておこう」ぐらいのつもりで、タティさんの右腕で、ギャラリーで一番できるお姉さんに聞くと、「ある」との答え! そして、出て来た一枚がこれだ。布が開かれた途端、「これは!」となった。

「一面、水牛」「一面、ウサギ」、または「高級ねこバティック」と同じようなパターンだろうと思っていたら、予想を裏切る絵柄だ。上には風船が浮かび、下にねこが一列になって歩いている。なんともメルヘンチックな、どこかヨーロッパ風なデザイン。
感心したのが、ねこの表現だ。「ねこの毛並みや表情を描く」という試みをいさぎよく放棄して、ねこはシルエットだ。それをバティック柄で埋めてある。花柄もあればパラン文様もあり、「バティック文様集」のようなねこたち。このアイデアが素晴らしい。


風船は、丸みを感じられる柄を入れてある。背景には一面に点々が描かれている。チャンティンを使って手で1個ずつ点を入れていくことを考えると気が遠くなる。真っ直ぐではない揺らいだ点線が、いかにも手描きだ。まるで星降る夜のようだ。草木染めの落ち着いた色合いが、まさに夜のような幻想的な風景を作り出している。
値段は450万ルピア(約4万円)。高級バティックより1桁少ない。「安い?」と感じてしまうマジック。そうは言っても450万ルピアは、私が買うバティックの中では高い方だ。さあ、買うか買わないか。
購入の決め手となったのは、まずは、このウェブサイトのタイトルである「ねことバティック」であることだ。珍しい「ねこ柄」でありつつ、「ねこをバティックで表現する」ことに成功している。これは「ねことバティック」を主宰する身としては、入手しておいた方が良いのではないだろうか。
バティックはどれも唯一無二なのだが、このバティックは、これまでに見たことがないデザインだ。そして、「買いたいけど買える値段ではない」、私の好きな「凧揚げ」と構図が似ていた。さらに、草木染め。私がよく買うチレボンのバティックは化学染料で染められているので、この「草木染めだからこそ出せる色合い」に惹かれた。
スタッフのお姉さんによると、このねこのバティックは「もう一枚、あった」。そちらは、ねこが前向きのバージョンだったそう。見ていないので何とも言えないが、ねこが横向きで歩いている方が、動きがあって断然良いと思われる。
思い切って購入したバティックだったが、ホテルで何気なく広げて腰に巻いてみて、「これは買って良かった!」と思った。裾にねこのいる模様が、足元にねこがじゃれついているようで、とてもかわいい。ねこと一緒に歩いているようだ。

ジャカルタの家に戻り、壁に飾ってみても素晴らしい。草木染めの色合いは化学染料よりも部屋に溶け込みやすいようだ。幻想的な夜の風景が現出した。普段は壁に飾っておき、何かイベントがある時には腰に巻いて「勝負服」にする、というので決まりだ。ねこ友達にも「すごく、はなこさんらしいバティック」と太鼓判を押してもらった。
※ルピア・レートは2025年7月現在
「ねこと風船」
101cm x 246cm
2025年購入
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