「バティックが最大限に活かせる巻物」とコンセプトが決まり、まずはプロトタイプ(原型)を制作。パソコンから実寸大に出力した紙を、横長に細く切ったバティックに貼り付ける。
初めてのデザインと素材なので、布に紙を貼り付けられるか、さらにそれが巻いたり伸ばしたりできる柔軟性があるかが実験だったのですが、薄めたでんぷんのりで、うまく行きました!
赤井都
また、バティック一枚を無駄なく使うとすると、布を縦に二分割し、さらに横に十分割して、計20枚が取れる。このため、制作部数は限定20部と決まった。
紙は、ネパールの手漉き紙「ロクタ」。ヒマラヤの高地で採れる植物、ロクタが原料だ。日本の和紙にも似た風合いで、植物の繊維が透けて見える。桜色、レモンイエロー、薄茶といったパステルカラーが美しい。この紙は、賀集さん、絶対好きだろう、と思われる。
紙は、名古屋にある紙専門店「紙の温度」で、父が買って来てくれた。以前にネパール旅行をした際に、ロクタの手漉き紙で作られたノートを買ったことがあり、ロクタにはなじみがあった、と言う。
妹は「ロクタは、格調や保存性や雰囲気がバティックと合う。活版印刷のしやすさで言うと、もう少し平滑な薄い紙が良かったけど、オーダー主である父の好きな紙で良いだろう」と、紙はこれに決めた。
印刷方法は、樹脂凸版(パソコンまたは手書きで作った白黒の線を、特殊な光線で凸版にした物)をオーダーし、手動式の小型活版印刷機(テキン)で妹が印刷することになった。
活版印刷はプロにオーダーすることもありますが、この本の場合は、ネパールのファジーな手漉き紙ロクタに、ややこしい面付けで小さい文字を印刷するという、プロにオーダーすると「正確にできないから」といやがられそうなことを、自分でやれば小回りが効くし許容範囲もわかるからと、自ら印刷。
文字の形によって、画数の多い漢字の集まっている箇所が潰れやすい。結局、小分けにして、紙の一枚を右半分・左半分と2回刷ることで、なんとか可読性を上げました。紙によって、文字がうまく出ていないのがあるけど、文章はデジタルで公開されているから良いでしょう。
これからインクが乾くのをじっくり待ち、それから製本作業に入ります。
赤井都
机に広げられた紙が乾かされている。机に降り積もった、美しい紙の、一枚、一枚。その中に、「Batik Aat, “Kapal Kandas”」と刻印された活字を見て、泣けてきた。(つづく)