ジャカルタのねこ友達のダグソトさんから「この子ねこに会いに行きたいけど、付き合ってくれる?」と連絡が来た。インスタグラムを見ていたら写真が出て来たという。生後2カ月の男の子で、名前は「パンダ」。ねこの譲渡活動をしている「Freeadopt」(https://www.instagram.com/freeadopt/)のアカウントだ。

ダグソトさんがなぜこの子にロックオンされたかというと、急逝した愛猫にそっくりだったからだ。私や友人たちが見ても、確かによく似ている。「ねこはお洋服を替えてまた戻って来てくれると言いますが、お母さんが大好きすぎてあっという間のお着替え頑張ったのかな?」「お洋服、替えてないですよね?! 『まんまじゃん』の驚きです」と話していた。この出会いは運命。縁があることを祈る。
インドネシアにしては譲渡条件が厳しく、毎年のワクチン接種、不妊手術、完全室内飼い、病気になったら病院へ連れて行く、などが義務。ねこ飼いとしては当然とはいえ、インドネシアできちんと守っている人はまだ少ないだろう。ダグソトさんが譲渡について問い合わせると、長い質問フォームが送られて来た。使っているフードの銘柄や種類まで聞かれ、家の写真(室内)も求められた。ダグソトさんはそれらの質問に全て答え、面会の約束を取り付けた。場所はバンドン近郊だ。土曜朝、車で出発!
マップでマークされた場所に着くと、家の前にはケージが置かれていて、中には親子のねこがいた。ここか? 尋ねると、「隣だ」と言われた。その隣の家にも、ねこの入ったケージが積まれている。地域ぐるみで、ねこの保護活動をしているのだろうか。その隣の家で連絡先だったAさんに会う。パンダはここにはおらず、近くに住むBさんの家のねこだと言う。一緒にBさんの家へ行く途中で、Aさんは「パンダは人気者で、ほかにも問い合わせが来ている」と話す。果たして譲渡してもらえるのかどうか。
Bさんの家に到着して2階のベランダへ上がると、母ねこと一緒のケージの中にパンダがいた。抱かれても一声も鳴かない。元気がないのか、それともおとなしい性格なのか。母ねこは黒白の長毛だ。
パンダの母ねこは、Bさんの家の屋根辺りで出産したようだ。しかし、周りにはほかのねこたちもいるし「危険」と判断したようで、ある日、パンダと共に家へ入って来て、そのまま保護された。連れていた子ねこはパンダ一匹だけだったそう。母ねこは避妊手術を済ませ、近く、ボゴールのシェルターに送られる予定だ。パンダも一緒にシェルターへ行く予定だったが、「パンダはかわいいから、里親募集してみたらどうか?」とAさんがBさんに勧めたという。
AさんとBさんの二人から、「親子を離すのはかわいそうだから、親子でもらってくれないか?」と言われた。しかし、ダグソトさん宅はすでに多頭飼いなので、難しい、と説明する。話しているうちに、いきなり、「今日、連れて行く?」という流れになった。ダグソトさんは「もうしばらくの間、母ねこと一緒にいた方がよければ、また出直して来ても構わない」と伝えたのだが、「今日、連れて行って」ということに。「あれよあれよ」という急展開にあわてながら、母ねこに「パンダをもらうね」と挨拶して、パンダを抱いたAさんと共に車へ向かった。
Aさんに、ダグソトさんに決まった理由を聞くと、「長い質問フォームを送った時点で、真剣でない人は回答して来ない。ダグソトさんは全部の項目にきちんと回答した。追加で質問した『日本に帰国する時はどうするのか?』には、『今いるねこ全員の帰国準備はもう出来ている』と、書類の写真を送って来た。そのことにとても感銘を受けた。もう一つ、ダグソトさんが飼っているねこは、全員が『ローカル』で、ペットショップで買った高価なねこでないことも良かった」と説明してくれた。
車の中には、「もし、もらうことになったら」という時のために、ケージが積んであった。ケージにはトイレ用シートとタオルを敷き、大きなトラのぬいぐるみまで入れてある。パンダはその中に入れられた。「パンダ、日本へ行くのね」と言われながら、Aさんとお別れ。
パンダと共に一路、ジャカルタを目指す。バンドンでのお昼ご飯の情報をいろいろ調べていたのだが、それは次の機会にして、ジャカルタのペットクリニック「グルービー」に直行した。道中、パンダは一声も鳴かなかったが、体を伸ばして寝ていて、リラックスしているようだ。ケージの蓋を開けて、その小さな体を指でそっとなでる。ちょっとごわごわした毛の感触。
グルービーに到着し、予約しておいたグスティ先生が診てくれた。生後1カ月半〜2カ月で、体重は約500グラム、体温は正常。「今日、保護したばかりです」と話すと、「では、全部、検査しますね」と言ってくれた。それからしばらく1階の受付で待っていると、先生が降りて来た。検査キットを手に持っており、グーグル翻訳を使いながらの説明が始まった。


検査キットの「ジアルジア症」に線が見える。「これは薬で治療できます。もっと危険なのは、これです」。それは「FPV」(パルボウイルス)。「うっすらと線が見える」と先生は言う。われわれの目には、線は見えないのだが……。「本当に、うっすらと……これだけでは診断できないので、血液検査をしましょう」と先生。「こんなに小さいのに、血液検査をしても大丈夫ですか?」とダグソトさんが聞くと「ほんの少量、取るだけなので、大丈夫です」。ダグソトさんの家には、ほかのねこたちがいるし、パルボの疑いがあるなら確定させる必要がある。「陽性だった場合は即隔離で、入院することになります」と説明された。
血液検査の結果を待つ。パルボウイルスの致死率は高い。「パルボにかかっていたら、こんな子ねこ、助からないよ」とダグソトさん。「どうしよう、(バンドンからジャカルタまで)運んだだけになっちゃう」と漏らす。私も、車内でそっとなでた毛の感触を思い出し、あれがパンダに触れた最後になってしまうかも、と思うと、胸を締め付けられるようだ。
祈る気持ちで待っていると、先生が降りて来た。パンダの入ったケージも一緒だ! 一緒に帰れる!! ああああああよかったああああ。
血液検査の結果は陰性。「ジアルジア症、回虫、ノミ、貧血」のフルコンボながら、パルボでさえなければ御の字で万々歳だ。ジアルジア症の薬やビタミンなどをもらい、「あと2週間で体重が1キロまで増えたら、ワクチン接種をしましょう」と言われた。
ケージの蓋を開けてのぞくと、「注射、痛かったよー」「怖かったよー」というように、パンダはぬいぐるみの下に頭を隠している。その姿に、思わず笑ってしまった。


ダグソトさんの家に着き、長旅と初めての病院で疲れたであろうパンダをケージごと、隔離室のバスルームに入れた。新しい砂を入れたトイレに遊び道具と、準備万端だ。子ねこ用のごはんも、かごに山盛り用意してある。グルービーで買ったウェットフード「ガストロ・インテスティナ」はあまり食べないので、「Mother and Baby Cat」をあげてみると、立ち上がってガツガツ食べて完食した。
その後の2週間、パンダは「Mother and Baby Cat」を飽きることなくガツガツ食べ、薬を飲み、回虫はお腹から出た。体重は順調に増えて、無事に1回目のワクチン接種ができた。
保護されたバンドンの家では、子ねこ用のごはんはもらっていなかったようで、避妊手術をした母ねこの母乳の出も悪くなっていたはずだ。その上、ジアルジア症に回虫に貧血。十分な栄養は取れていなかったと思う。「また改めてパンダを迎えに行く」ということにしていたら、もう会えなかった可能性もある。
パンダは無事に命拾いして、すくすくと育っている。赤茶色の毛はマンゴスチンに似ている。もらった名前は、「文太(ぶんた)」。保護ねこ団体のAさんは、文太が日本行きのチケットを手にしているのがうらやましくて仕方ないようで、「幸せなねこだ」と繰り返している。


インドネシアでねこの譲渡を受ける場合の注意
- 健康チェックはされておらず、病気にかかっている可能性がある。まずは病院に直行して徹底検査を。
- 「Free adopt」とうたっているので現金を渡すのはやめて、お菓子とねこの物(フード、砂)をお礼に渡した。
- 譲渡後もWAでいろいろ連絡が来る可能性がある(寄付のお願いなど)。