[ウミ物語](4)帰省

[ウミ物語](4)帰省

 「全てのねこは、幸運をもたらすLucky Catである」と信じているのだが、ウミに関しては「疫病神」だ、と何回も思った。それぐらい、トラブルメーカーであり、問題続き。

 妊娠と出産騒動の次に起きたのは、発情騒動だ。ウミは拾った時にすでに妊娠していたため、子ねこが乳離れしてから、ワクチン接種、不妊手術、という予定だった。ところが、まだ授乳中に発情してしまった。出産からまだ2カ月も経っていない。子ねこももちろん、まだ小さい。

 体が勝手に反応しているのだし、本能なので仕方ないのだが、別人格のようになってしまい、夜中にうろうろと玄関の方へ行って激しく鳴く。日本であれば、直ちに隣近所から苦情が来るほどのうるささ。まったく寝られないし、ほかのねこたちも落ち着かない。

 玄関で鳴いているウミを、子ねこのいる部屋へ連れて行く。子ねこは「母ちゃん!」と飛び出して来るのだが、ウミは上の空だ。またうろうろと玄関の方へ戻り、激しく鳴く。午前4時ごろになって、ようやくベッドの下へ潜り込んで来て、寝始めた。ほかのねこたちも「やれやれ」というように、ようやく寝た。大変な事態だ。

 朝、救世主のミニさんが来てくれて、ウミを病院へ連れて行った。最速の日程で不妊手術を予約し、そのまま、手術の日まで入院させてしまうつもりだった。お金はかかるが、仕方がない。ウミのいない家は平和だ。ところが、手術の予約はできたものの、「ワクチン接種をしていないと入院できない」と言われて、家に帰って来てしまった。

 手術は3日後。それまで、自分とねこたちの体調と精神状態が持つかどうか、近所から苦情が来ないかどうか、真剣に心配した。夜は、暗くすると鳴き始めるので、子ねこのいる部屋に閉じ込め、電気は夜中、付けっぱなし。

 ようやく手術の日が来た。本当は、ワクチン接種などの段取りをきちんと踏んだ上で、安心な病院「グルービー」で手術、という予定だったのだが、なんと、近所の病院で日帰り手術、となってしまった。

 グルービーでは、女の子なら最低2〜3泊は入院させられる。「そうしないと安全は保証できません」と言われる。しかし、ウミは、手術が済んで麻酔が覚めたばかりの状態で、うちに帰って来た。下半身にはガムテープが巻かれた痛々しい姿だ。

 しかし、ウミの生命力、たくましさには驚かされた。まだふらふらしていたものの、1時間ほどしたら歩き回り、夜中には「お腹が空いた」と鳴いて、魚をバクバク食べた。ベッドに上がって来て、私にくっついて寝た。手術後しばらくは服を着せられていたが、それも嫌がらずに、辛抱強く着ていてくれた。

手術後のウミ(2021年11月2日)
手術後のウミ(2021年11月2日)

 こうして、子ねこは無事に大きくなり、ウミは「甚五郎を攻撃する」「おしっこ癖が悪い」という問題はあったものの、なんとか平和な日々が続いていた。そこへ、ミニさんが子ねこのモモを拾って来たころから、再び大問題が発生する。モモに対する嫉妬か、わざと、トイレでない所でおしっこをする。いろんな物におしっこをかける。

 まず被害に遭ったのはミニさんの持ち物だ。バッグや服、化粧品など。次の標的は、甚五郎。甚五郎の好きなクッションや毛布が次々にやられた。その先は、どんどん被害が広がっていった。

 台所のマットは置いてあると必ずおしっこをするので、撤去された。リビングのソファ、椅子のクッションもやられて、撤去。私のバッグも、いくつもやられた。机の上のバティックや本の上でもやられ、最終的には、私のベッドの毛布や枕にもやるようになった。

クッションが取り外されたソファ(2023年9月18日)
クッションが取り外されたソファ

 甚五郎は、クッションや、ベッドの毛布の上に寝るのが好きなのだが、甚五郎がくつろいでいた場所には、必ず、おしっこがしてある。洗っても洗っても、おしっこ。キリがないので、最終的には撤去される。洗いやすく乾きやすいバティックをたたんで置き、甚五郎は薄っぺらいその上で寝るが、それにも、おしっこされる。

 私のウォークイン・クローゼットには高価なバティックなどがたくさんあって、やられると一番ヤバいので、締め切りにして、鍵を掛けた。本当は、フレディやモモ、そしてウミ自身も、このクローゼットはお気に入りの場所だった。棚の一番上に上がって寝たり、吊り下げてある服の下で寝たりしていた。しかし、ウミを入れられなくすると、全員が入れなくなる。

 こうして、人間とねこ、そしてウミ自身にとっても、どんどん生活環境が悪くなっていく。全てのクッションや毛布は撤去され、くつろげる場所はなくなっていき、次々に部屋は締め切られ、部屋は、ねこの嫌いなスプレーだらけだ。

この窓から外を見ていることが多かった(2023年7月21日)
窓から外を見るウミ

 さらに、ウミは「外へ出たい」欲求が高まっていった。まるで発情期のように、激しい、大きな声で鳴く。それも、どんどんひどくなっていく。夜中に鳴くので、目が覚めてしまう。

 窓から外を見て鳴く。玄関の戸の前へ行って、エレベーターホールにまで響き渡るぐらいの大声で鳴く。その鳴き方が、もう「鳴き叫ぶ」というぐらいの悲痛さだ。「ここにいても幸せではないです」「外へ行きたい」という訴えを聞き続けるのは辛かった。

 あまりにもうるさい上に、至る所でおしっこをするので、ウミをバスルームに閉じ込めることが増えた。閉じ込めると鳴きやむ。しかし、このままだと、ウミを「部屋に閉じ込めたまま」、またはインドネシア人のねこの飼い方のように「ケージで飼う」ことになってしまう。それはウミにとっては、ますます幸せでない環境だ。

 ウミは、トイレの砂を新しく入れると、必ず中に飛び込んで来て、ゴロゴロする。土、砂が好き。いつも窓から外を見ていて、カーテンが開いていないと、カーテンの向こう側に頭を突っ込み、夢中で見ている。視線の先にはベランダがあり、木があり、鳥が来ているのだ。

 ウミとわれわれ双方にとって幸せな道とは……。中部ジャワにあるミニさんの田舎へ連れて行く、という話は以前から出ていた。元々、私が日本へ帰国することになったら、ウミとモモは、ミニさんのねことして、ミニさんの実家へ連れて行くことになっていた。予定を早めて、連れて行ってしまおうか。

 ミニさんの郷里の地名をグーグルマップスで検索すると、今すぐ行きたくなるぐらいの美しい写真が出て来た。山がある。緑がある。

 そこへ行けば、ウミの大好きな土がある。木がある。鳥も小動物もいる。外で遊べて、家に帰れば、ごはんがある。ごはんはカリカリのほかに、手作りのウェットフードとして、鶏と魚をあげていると言う。問題は、すでにねこが7匹いることだが……。ミニさんも私も、毎日の洗濯物の山と、夜に眠れないことで限界が来ていた。

 ミニさんといろいろ話し合い、帰省を決行することになった。お別れだ、ウミちゃん。

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