オンラインの「べんきょう会」で、バティックの話をする機会があった。私の「推し柄」などを話したのだが、意外だったのは「私はカウンが好き」と、カウン文様を推す人の多かったことだ。友達の西川知子さんが「カウン推し」であることは知っていたが(インドネシアの雨[ウダン・リリス]https://batikucing.com/archives/5383)、私自身は正直、カウンはノーマークだった。
カウンに似た文様はほかの地域にも見られ、「バティック特有の文様」でもない(と言っても、バティック伝統文様は、世界各地のほかの文様とつながっていることが多いのだが……雨雲「メガムンドゥン」しかり、「生命樹」しかり)。カウンにあまり目が行っていなかったもう一つの理由は、カウンは「背景を埋める文様」として使われることが多いのだ。カウンが主役のバティックもあるが、わりに少ないのではないか。しかし、ここまでカウン好きが多いと、急にカウンが気になり始めた。


カウン(kawung)は「砂糖ヤシ」のことだ。
カウン模様は七宝文であり、わが国でいう七宝つなぎの模様であるが、その他に楕円形や卵形を四弁風に構成したものもみられる。弧線で包まれる部分、卵形の部分に十字形や点が二個置かれたものが多い。また菱形の部分にも十字花形が施されている。カウンは「砂糖椰子」の実を輪切りにした形から名付けられたともいわれる。
この模様はBatikの模様として非常に古くからあり、現在も好んでよく用いられるが、大きく完全な理想を意味する模様といわれている。ヒンドゥ・ジャワ時代の石彫りの神像のまとう衣服にもカウン模様がみられるところから、インド起源の模様とも考えられている。回教徒の王侯時代にはパラン模様とともに禁制の模様であった。
稲垣和子「ジャワバティック」(源流社、1978年)
日本の七宝つなぎの場合、円形を連ねただけのシンプルなデザインが多い。しかし、バティックのカウンは、装飾的でかわいらしい。上の文章にあるように、「卵形の部分に十字形や点が2個」「菱形の部分にも十字花形」という点が特徴。そして、バリエーションも非常に幅広い。バティックの主役にもなるが、背景や充填文様として、あちこちに顔を出す。

そして、ソロやジョグジャカルタの人も「カウン推し」で「カウン大好き」なようなのだ。空港の建物の装飾、ソロ川(ブンガワン・ソロ)の橋桁、歩道の敷石など、あちこちにカウン文様が使われている。まるで「カウンを探せ!」だ。






こうして見ていて感じるのは、カウンの連続模様としての優秀さと、モチーフとしての豊かさだ。
カウンをずっと見ていると不思議な気持ちになる。真ん中に菱形の入った「円が連なっている」ようにも見えるし、花びらのような「四弁が連なっている」ようにも見える。ネガとポジが反転するように、どこを見るかによって形が変わり、ちょっとだまし絵的にも見える。模様は反転しながら、空間をどんどん広げていく。


「円」というシンプルな形が、さまざまな形に花開いていく。単純なのに力強く、「大きく完全な理想を意味する」(稲垣和子「ジャワバティック」)というのも納得だ。ほかの連続模様とちょっと違った印象を与えるのは、「円」から発展した文様だからだろうか。
これまでノーマークだったので、「これは」というカウン文様のバティックは持っていない。その中で一枚を挙げるとすると、チレボンのアリリ工房で買った「レンコレンコ」。チレボン伝統のギザギザ模様の中を、カウンで埋めてある。色の効果もあるのだが、カウンの上に置かれた大輪の花やクジャクのような鳥が、ぱっと引き立つ。レンコレンコがギザギザの直線模様なので、直線の充填模様ではダメだろうし、やっぱり円が基調のカウンが良い。カウンが背景に来ると、非常に落ち着いた印象となる。



チレボン・バティックの本(Casta & Taruna, “Batik Cirebon”)を見ると、砂糖ヤシの「実」だけでなく、「花」をモチーフにしたカウン、「ランブータン」と名付けられたカウンも紹介されている。カウンの世界は多様で、その面白さに改めて感心している。
「レンコレンコ」(花とカウン)
アリリ工房作
105cm x 260cm
2025年制作・購入