ピザの一片のような形をした茶色や黒色の三角形が、布全体を埋め尽くしている。うまく、たくさん、はまるように、三角形は大きかったり小さかったり、細かったり、中には四角だったり丸っこかったり。不揃いな形で、ぎっしりと配置されている。
「このモチーフは何?」とインドラマユのバティック職人のアアットさんに聞くと「サワット・ビスクイット」(Sawat Biskuit)と言う。「ビスクイット?」「お菓子のビスケット」「え?!」。
ビスケットの間の所々に入っているのは「sawat」(翼)。大きな物は向き合うようにして「両翼」の形で入れられている。翼とは権力の象徴。王冠などに使用され、チレボンやインドラマユでは結婚式のモチーフでもある。
アアットさんが見せてくれたインドラマユ・バティックの本によると、「インドラマユでは結婚式の時に、新郎新婦が翼(の装飾)を腕に着ける。ビスケットは昔、お祝いやお祭りの時にだけありつけたご馳走の一つ。インドラマユでは結婚式の時に供された」とある。
つまりこれは、結婚式のお祝いで振る舞われた、ご馳走のビスケットを表しているよう。画面を埋め尽くす、これはまた盛大な振る舞いだ。ビスケット・パーティー、ビスケットの饗宴だ。
改めて見ると、三角形のビスケットがとてもおいしそうに見えてくる。黒いのは、焼く時に失敗して焦げてしまった物だろうか。
インドラマユ・バティックでよく使われる「黒」と「茶色」の色彩が、このモチーフにぴったりだ。茶色と黒が生きている。
「翼とビスケット」(Sawat Biskuit)
アアット作
101cm x 241cm
2022年購入
40万ルピア(値段は購入当時)