賀集由美子さんは結構な数ののれんを制作している。バティック小物を多く制作していたのと同じで、「日本の生活の中で使いやすいバティック」を模索していた。のれんはインドネシア伝統の「カインパンジャン」よりも日本の家で飾りやすいサイズで、用途もある。
チレボンのアリリ工房に、賀集さんののれんの原画がたくさん預けてあり、賀集さんと一緒に訪ねた時に、いろいろ広げて見せてもらったことがある。動物柄、海柄とバリエーションは多く、どれもすてきだ。どれかを選んで注文しようと思ったのだが、アリちゃんに「色はどうする?」と聞かれて、白黒の下絵を見ているだけでは何も思い付かず、そこで止まってしまっていた。
加治屋聡恵さんは「賀集さんののれんコレクター」だ。うらやましいほどの数ののれんをお持ちだ。それらを見ると、「左右2枚に分かれた小さなのれん」に一つの世界が構築されているのがわかる。
チレボンのご遺族が放出した賀集さんの遺品の中に、のれんがあり、迷わず購入した。「使うのはちょっともったいないなぁ」と思ったものの、「バティックは使ってこそ」と賀集さんが言われていたし、のれんだし、と、部屋に飾ってみた。
2枚ある。1枚は「大きい破れた布」と同じく、また例によって「作りかけ」だ。一回目の染色プロセスで、なぜか止まっている。赤と薄い黄色の上品な色合いで、白く空いている所はあってもそれほど違和感はなく、あまり「作りかけ」という気はしない。
2枚の布にまたがるようにのびやかに描かれた唐草。その間に動物や鳥たちがいるという、賀集さんお得意の柄だ。ザクロが実を付けている。布の右端にのみ、赤い帯の中に花が咲き乱れているのもうまい。バティックの伝統文様を見事に活かして、「のれん」という別の形態、それも完成された形にしているのではないだろうか。
これはベッドルームのクローゼットに掛けてみた。見るたびに心が安まる。「草花も動物たちも萌え出でる」という印象を受けるので、これは「春」。
もう一枚は、縦のギザギザ模様の中に、草花や果物が配置されている。かっちりした印象、落ち着いた黄色と茶系の色合いに加えて、果物がぎっしり実っているように見えるので、これは「秋」。果物は、ザクロやブドウのほかに、ドリアンの入っているのが面白い。左右対称ではなく、ドリアンの入っているのは左側のみというのも良い。
のれんを使ってみてわかったのは、「透ける」美しさ。布を腰に巻いたり、壁に貼ったのではわからない、光を通した美しさと、両面から見る楽しさを堪能できる。一日に何回もこの間をくぐり、しょっちゅう、自然に、手と目で触れる、という点もいい。
賀集さん、「夏」と「冬」ののれんも欲しいです。
のれん「春」(未完成)
賀集由美子(スタジオ・パチェ)作
122cm x 84cm
制作年不明
のれん「秋」
賀集由美子(スタジオ・パチェ)作
118cm x 90cm
制作年不明
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