「ものすごく格好いいバティックだな」という第一印象だった。きりっとした紺白で「卍」がはっきりと浮き立ち、その周りには黒茶紺の複雑な模様が沈んでいる。
これは「箱卍(Banji Tepak)」という名のチレボン伝統文様。「Banji」は「卍」、「Tepak」は「Kotak」(箱)、特に「装飾品や煙草などを収める小箱」という意味(Casta & Taruna,「Batik Cirebon」)。ちょっと特別な、大事な物を入れる宝石箱のようなイメージだろうか。
卍の線が形作る四角形が箱のようになっていて、その中には、動物、鳥、花などが、大体1個ずつ、草花などで美しく装飾されて収められている。中には、麒麟や龍にも見える、何だかわからない不思議な動物もいる。まるで森羅万象を包含しているようだ。
色合いも黒・茶(黄土色)・紺・白という「ザ・クラシック」カラー。華やかで面白い現代的バティックに目を引かれがちだが、最近、こういう「伝統柄」がいいなぁと思い始めた。色の数や種類には制約がある。模様は長い年月と多数の人々の手を経て完成されたものだ。線の一つひとつに無駄がなく、抽象と具象が融合していて、見飽きることなく、本当に美しい。自分の思いを乗せて、いろいろな想像を働かせられる包容力があるのも、伝統柄の良さだ。
2023年のお正月に飾るバティックは、これを選んだ。きりっとした厳しさがお正月の雰囲気に合う。そして、アリさん工房で昨年、このバティックを買った一番大きな理由は、賀集由美子さんも「箱卍」柄バティックを制作されていたからだ。「あ、あのバティックに似ている」と思って購入した。
このバティックは、昨年に賀集さんを送る気持ちで書いた「チレボン銀河鉄道」を思わせる。桔梗色の線路に、天の川は白く光る。線路脇に次々に現れるバティック文様は、「箱」に収められた森羅万象だ。
卍の線路は迷路のようだ。直角に折れ、上へ行ったり、下へ行ったり。しかし、途切れることなく、布の端から端まで、ずーっとつながっている。この桔梗色の線を目でたどりながら、どこへ行くかはわからないけど、続けることで、どこかへ至るのではないだろうか、と思ったりする。
「箱卍」(Banji Tepak)
バティック・アリリ作
115cm x 220cm
2022年購入
300万ルピア(値段は購入当時)