[100枚のバティック](15)賀集さんのインドネシア地図 ㊤

[100枚のバティック](15)賀集さんのインドネシア地図 ㊤

 「インドネシア地図模様のバティック」は、インドネシア関係者のお土産に最適だと思うのだが、例えばトコペディアを検索してみると、似たような品ばかりが出て来る。

 長さは大体、1メートルぐらい。インドネシアの島の形だけが描かれ、書き込まれている地名は島の名前、せいぜい大きい都市のみ。島の模様はバティック伝統文様でちょっと変化を付け、色合いは茶系が多い。まぁ似たり寄ったりだ。「これは面白い!」というバティック地図は一つもない。なぜこの分野では独創性が発揮されないのか、不思議に思う。

 そういう平々凡々なバティック地図を見た後で、賀集由美子さんの「インドネシア地図」を見ると、そのユニークさと面白さに圧倒される。賀集さんの作品の中で、実は、最高傑作の一つではないかと思う。

インドネシア地図(全体)
賀集さんのインドネシア地図(吉岡里奈さん撮影)

 特徴として、第一に、大きい。バティック用の布で制作しているので、長さは約2.4メートル。よくある「お土産用バティック地図」の倍以上となる。この大きさで作られたバティック地図というのが、まずは、非常に珍しい。

 実は、賀集さんは、もう少し小さいサイズでの「インドネシア地図」を以前から制作していた。シルクスクリーンで刷って「抱き枕カバー」にしたり、表裏でインドネシア地図となるトートバッグにしたり。こういう品を作りながら、「もっと大きい物を、シルクスクリーンではなくバティックで作ってみたい」「カインパンジャンで、バティック地図?!」という気持ちが膨らんでいったのではないか。

各地の名産が描き込まれた、賀集さんのインドネシア地図。シルクスクリーンで刷った「抱き枕カバー」。残念ながら、人にあげてしまった
インドネシア各地の特産品が描き込まれた、賀集さんのインドネシア地図。シルクスクリーンで刷った「抱き枕カバー」。残念ながら、人にあげてしまった

 第二の特徴は「海」にフォーカスしていることだ。市販のバティック地図は、「陸地」フォーカス。賀集さんがシルクスクリーンで作ったインドネシア地図も「陸地」フォーカスなのだが、このバティック地図では、がらっと視点を転換させている。

インドネシア地図(パプア)
インドネシア地図のマルク・パプア地域(吉岡里奈さん撮影)

 海に浮かぶインドネシアの島々。陸地は思いっきりシンプルで、カリマンタンのオランウータン以外、ほとんど描き込まれた模様はない。色もすっきりと、青のみ。ただし、州の境や州都などの大きな町は丹念に書き込まれていて、「地図」としての用をなすようにしてある。

 一転してにぎやかなのは、海だ。さまざまな魚、トビウオ、エビ、カニ、ウミガメ、クジラなど、海の生き物たちがいっぱいだ。ペン子ちゃんも一緒に泳いでいる。帆船や漁船も浮かぶ。

 サーフィンで有名なニアス島の近くにはサーフボードに乗ったペン子ちゃんがいたり、スラウェシ島マナドの上には海上住居、パプア近くのアラフラ海には真珠貝など、その地の特産物がさりげなく描き込まれている。

 このように「海をテーマにした」という点が非常に斬新だ。「海洋国家インドネシア」という言葉が浮かぶ。インドネシアは世界最大の島嶼国だ。「海から見たインドネシア」とでもいうバティックだ。

 このバティックに関しては、吉岡里奈さんの「賀集さんへの手紙〜賀集さんはここにいたんだね」が泣けるので、是非読んでください。

 地図の左上、インドネシア国境の西端に当たるアチェの上に、日本国旗を掲げた「JAPAN」という船があり、ペン子ちゃんが手を挙げている。これを見てもまた、泣けて泣けて仕方がないのだ。

賀集さんのインドネシア地図

「インドネシア地図」(Peta Indonesia)
賀集由美子(スタジオ・パチェ)、アアット作

101.5cm x 241cm
2021年6月制作
80万ルピア

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