2024年5月、ペンギン愛好家の方と共にチレボンへ。いつものアリリ工房へ着いてから、「この辺の布は新作だよ」と言われたバティック布を開き始めた。おおーー、私の好きな動物柄だ! しかし、これは一体……? キリン、象、カンガルー、サイなど、どこかアフリカっぽい風景の中に、ラクダ、七面鳥、フラミンゴなど、珍しい動物や鳥たちが雑多に混じっている。
友達が「ペンギンは、いないかな?」と言う。いやー、さすがにいないだろう、と期待せずに探してみると、いたー!! 布の右端に2羽、そしてなんとセンターに2羽、計4羽のペンギンが!!
蝋落とし2回(2回プロセス)の多色染めと、蝋落とし1回(1回プロセス)の青・紫色の2枚。多色染めの方は薄いオレンジと青色でかわいい配色だが、ペンギン3羽のおなかが細かく蝋描きされてしまっている。「間違えて蝋描きしちゃった」とワワンさん、青・紫の方は、ペンギンのおなかが4羽ともに、ちゃんと白い。
そしてアリさんが開いてくれたもう1枚の動物柄は、大胆に上下で赤青に色分けされた、一幅の絵のようなバティック。下の青い部分が海、上の赤い部分が地面と空。海の中で泳いでいるのはイルカに亀、そして、ここにもペンギンが! 岩の上にもペンギンがいる。地上を占めるのはキリン、カンガルー、ゴリラなど、やはりアフリカっぽい動物たちで、空には鳥が飛んでいる。海・地・空が一枚のバティックの中に描かれているのは、なかなか珍しい。
そして、もう1枚あった動物柄は、同じようにキリン、ゴリラ、カンガルー、象などがいて、なんともかわいらしい色と柄だ。ここには残念ながら、ペンギンはいなかった。
さて、この3点(4枚)、全て動物柄なのだが、絵がまったく違う。3点ともに下絵職人が違うと言う。
「海・地・空」のバティックは、賀集由美子さんの遺品の中にあった、子供の塗り絵のような絵本をワワンさんがもらって来て、それをバティック下絵に起こした物。元の絵は、真ん中が空で、ぐるっと取り巻く四辺が海と地面の連続模様になっている。「向きがいろいろだと、絵として見にくい」と考えたワワンさんが、下を海、上を地面と空にした。下絵を描いたのは、アリリ工房に常勤する下絵職人さんだ。
面白いバティックなのだが、惜しいのは、同じ絵が縦向きに約3つと、反復して描かれていることだ。通常のバティックであれば、パターンの反復でも構わないのだが、これはせっかく「一幅の絵」のような作品なので、布全体を使った絵になっていた方が楽しい。
ペンギンのいない動物柄バティックは、また違う下絵職人さんが描いた絵。「海・地・空」と同じ元絵から取ったとみられる、ゴリラ、カメレオン、アルパカなどの姿がある。「下手うま」的な味わいがあるのだが、「味がある」とみるかどうかは、好みだ。こちらもパターンの反復で描かれている。
見比べてみると、最初のバティックは、絵のうまさが際立っている。動物がどれも生き生きしていて、隅々まで眺めていても、まったく見飽きない。「この下絵を描いたのは、賀集さんの工房で働いていた下絵職人のサプトロさん」と聞いて、「ああ、なるほど」と納得した。
下絵を布にトレースしたのではなく、布に直接、下絵を描いていると言う。なので、似た動物が描かれているように見えても、少しずつ違う。色違いの2枚もコピーしているわけではないので、見比べると細部が違う。例えば、多色染めの布の方は、ペンギンは右端にいるが、青・紫色の方では、ペンギンの隣にカワセミのような鳥と口を開けたカバがいる。
全体的な動物の配置など、空間の埋め方が完璧だ。そして、親子のキリンが木の葉を食べていたり、草を口にくわえた「食事中」の動物が多かったり、なぜか鉢植えの木が動物の間に置かれていたりと、なんだかユーモラスで、見ていてなごむ。
ほかの2枚と比べると、絵力が違う。そのためか、見ていると目が離せない。もちろん、バティックは好き好きなので、「あまり写実的な絵より、デフォルメされている方がかわいい」と感じる人もいるだろう。しかし、好みは別として、バティックは下絵によってまったく変わる、ということを改めて知った。私が購入したのは、青・紫の動物柄だ。
ペンギンのいる風景(青・紫)
バティック・アリリ作
105cm x 263cm
2024年制作
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