2022年7月19日の夜。腕を組んでじっとテレビを見ていた、中央ジャカルタ在住のネコさん。しかし、その目はテレビを見ていなかった。妻のニコさんに「やっぱり、連れて来るわ」と言うなり、大きい鞄を持って外へ出て行った。
一緒にジャカルタへ来た北海道生まれのねこのチェリーちゃんは、介護の末、4月9日に17歳で亡くなった。その知らせを受けたネコさんは、ゴルフを途中でやめて、ボゴールからタクシーを飛ばして帰って来た。ねこ好きが有名になり、付いたあだ名が「ネコさん」。週末に外のねこたちにごはんをあげに行っていたが、7月初めに「スディルマン通りで、かわいいねこを見付けた」と話し、朝昼晩とごはんをあげていた。
そして、いきなりの「やっぱり」。実はそれまでにも、大きい鞄を持って出て行って、「いなかった」と帰って来たことは何回かあった。またそうなるか、と思いきや、今回はなんと、本当にねこを連れて戻って来た。ねこはすぐに洗われて、「明日、病院へ行こうね」と話しかけられ、ベッドで寝た。こうして保護されたのが、クーちゃん。クー(queue)は、フランス語で「尻尾」という意味。丸まった尻尾が特徴的なので、「クー」と名付けた。
拾ってすぐの時は下痢がひどかった。さらに、あげたごはんは全部平らげてしまう。「いつ、次のごはんが食べられるかわからない」という野良ねこの習性だ。ようやく食欲が落ち着いたのは、拾って一カ月ぐらい経ってからのことだ。
ここからが、びっくりの話。クーちゃんを拾って2日ぐらいしてから、ニコさんはバザーへ行き、そこで会った友達に「うちの夫が、ねこを拾って来ちゃって」と、写真を見せて話していた。すると、その友達と一緒にいた人が、「ちょっと写真を見せてもらえませんか?」と言う。ニコさんが1枚だけ撮っていた写真を見て、「この子、Tちゃんだー。拾ってくれてありがとうございます」と泣き出した。
その人、Yさんの話。
「うちには日本から連れて来たねこ2匹がいます。外のねこにもごはんをあげて歩いていて、顔なじみのねこには勝手に名前を付けていました。この子は、尻尾がくるくるっとしていて特徴的なので、尻尾の形から『Tちゃん』と呼んでいました。ちょっと元気がないな、日本のごはんをあげようか、と思っていた矢先に姿を見なくなったので、死んじゃったんじゃないか、と心配していました。『スディルマンで、ねこを拾った』と話しているのが聞こえたので、思わず、お声を掛けてしまいました」
Yさんは、後にニコさん宅を訪れてクーちゃんに会い、「同一人物である、と確認しました」。クーちゃんは人なつっこく、「スディルマン近辺でも、飛び抜けてかわいい子でした」とのこと。
ニコさんは別の人にも、「私、このねこにごはんをあげていました。ありがとうございます」とお礼を言われたそう。「ねこを拾っただけで、こんなに感謝されるとは……」とニコさん。
クーちゃんを拾った翌日、ネコさんは会社へ出かけた。ネコさんが帰宅するなり、クーちゃんは玄関へ駆けて行って、ジャンプして、ネコさんの腕の中へ飛び込んだ。
ジャカルタに住む日本人何人かからかわいがられていたジャカルタのねこが、幸せなおうちを見付けました、というお話。