[100枚のバティック](29)針で穴を開ける[チョンプロガン]

[100枚のバティック](29)針で穴を開ける[チョンプロガン]

 「バシバシバシバシ……」、工房の隅でリズミカルな音が響いている。全面に茶色の蝋がべったり付いた、ずっしり重い布に、針で穴を開けているのだ。本当に、実際に、布に穴を開けている。布を透かして見ると、小さいとは言えぽっかりと穴が開き、向こう側が見えている。

ちょっとわかりにくいが、よく見ると点々が
ちょっとわかりにくいが、よく見ると点々が
蝋で伏せた布に、針で穴を開ける
 等間隔で穴が開いている
染色して蝋落としをした布。マンゴー、船、魚などのインドラマユの風物の背景に、紺色の点々が入った
染色して蝋落としをした布。マンゴー、船、魚などのインドラマユの風物の背景に、紺色の点々が入った

 最初に見た時は、「えええっ! 布に穴を開けてしまって大丈夫なの?」とびっくりしたものだ。「開けた穴に染料が入るので穴はふさがり、問題ない」とのこと。確かに、染色、蝋落としをして完成した布を透かして見ると、角度によってはちらっと穴が光るものの、穴も開いていない普通の布に見える。

 これは、インドラマユ独特の技法である「チョンプロガン」(complongan)。防染のための蝋に穴が開いて、そこに染料が入るので、白地に非常に細かい点々が出来る。バティックでは、例えば紺地に白い点々を入れるのは、細いチャンティンを使って点を描き、紺に染めれば良い。しかし、逆の「白地に紺の点々」は、チョンプロガンでないと無理だ。チャンティンでやる場合、「点々」だけを除いて、その周りを蝋伏せしないといけないからだ。

 使う道具は、非常にシンプル。木の台に15、6本の針が埋め込まれ、糸をぐるぐる回し掛けて、針を固定してある。手に持ってみると、木と針なので、非常に軽い。

チョンプロガンの道具
チョンプロガンの道具

 チョンプロガンをする布を、布を掛ける横棒の付いた台に掛け、その台の下部を足でぐっと踏んで、ぐらぐら動かないようにしっかり固定する。それから左手で、棒に留めてある布をぐいっと手前に強く引っ張り、布が「ぴん」と張られた状態にする。右手にチョンプロガンの道具を構え、布に当てて刺す。そして、上から下へと、リズミカルに道具を動かしていく。

 これが、やってみると難しい。べっとり塗られた蝋に針を刺すと、意外に強い反発というか手応えがある。蝋にぐっさり突き刺さった針が、べっとりした蝋に絡め取られたようになって、すぐには抜けない。

 なんとか刺して、刺した針をようやく抜いて、もたもたやっていると、窓からじっと見ていた工房主のエディさんが「音がしないよ!」とダメ出し。コツは、布に刺した後で、針をはじくようにすること。そうすると、「バスッ」と鈍い音がようやくした! バスッ…………バスッ…………バスッ…………。

 刺すこと以外に難しいのは、茶色い蝋の中の針跡は見にくく、どこを刺しているのか、よくわからなくなってしまうことだ。この部分はもう終わったのか、まだなのか。同じ場所に重複して何度も刺してしまったり、刺していない部分が出来たりする。列の間隔も、もちろんばらばらだ。

バティック職人のヌヌンさん
バティック職人のヌヌンさん

 隣に座って教えてくれたバティック職人のヌヌンさんは「バシバシバシバシ」と、ミシン音のような軽快な音をさせながら、私の数倍の速度で刺し、間隔も見事に揃っている! 最初はビニールを使って練習するそうだ。確かに、ビニールであれば、穴が見やすい。慣れない最初のうちは手を刺してしまったりもしていたそうだ。

ビニールで練習する様子を見せてくれるバティック職人のアアットさん
ビニールで練習する様子を見せてくれるバティック職人のアアットさん
ビニールの方が穴が見やすい
ビニールの方が開けた穴がよく見える

 エディさんの工房で、チョンプロガン体験用に用意してもらった布には、チャップ(型)が4つ押してあり、白地の2つの方にチョンプロガンをする。ヌヌンさんにほとんどやってもらったが、きれいに針目が揃っている部分(ヌヌンさんのチョンプロガン)と、間隔がバラバラだったり、穴が開いていない部分もあったりと(私のチョンプロガン)、ばらつきがひどい。それでも、初めてのチョンプロガンの一枚だ。

チャップは、「インドラマユの風物」と賀集由美子さん作の「バティック制作中のペン子」の2種類。それに賀集さんの原画からチャップを起こした縁模様が1種類
チャップは、「インドラマユの風物」と、賀集由美子さん作の「バティック制作中のペン子」の2種類。縁模様は、賀集さんの絵から起こしたチャップ。この白い部分に針を刺す

 私はバティックのすっきりした白場が好きなので、「なぜわざわざ点々を入れるのか?」と、それほどチョンプロガン入りのバティックは好きではなかった。しかし、実際にやってみると、感じ方が変わってくる。

 ほぼ整列しているものの、手仕事ならでの不揃いさもある「点々」が、模様に面白いニュアンスを与えているように思う。バティックの作り方をちょっと知っている人に見せたら、「えーっ、どうやって作ったの?」と不思議に思われると思う。まさか、針で穴を開けるとは、ね。

うまくチョンプロガンできた?
うまくチョンプロガンできた?

チョンプロガン入りの大判ハンカチ
バティック・ビンタン・アルット作

50cm x 50cm
2023年制作
無料

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