バティックでこんなこともできるんだ、ということをお見せするためにご紹介したいのが、こちらの象柄バティックの「お直し」だ。
2019年10月、「チレボン・バティックお買い物ツアー」で、ブディ・マシナ工房へ行った時のこと。象の模様のバティックがなんだか気に入ってしまい、購入した。「子供の絵」とまでは言わないが、そんなにうまくもない象とショッキングピンクの色合いがかわいく思えた。値段は30万ルピアから25万ルピア、最終的には20万ルピアまで下がった。
問題は、畳んだまま戸棚に入れっぱなしにしてあったようで、戸棚に接していた一角が茶色く変色していたことだ。白地なので目立つし、これは洗っても落ちない汚れに見えた。
一緒にその場にいた賀集由美子さんは「ちょっとブディさん工房、そんなの売って……」と内心、思っていたらしい(と、後で私に話してくれた)。そして、「染め直しましょうか?」と提案してくださった。「ここをテンボック(蝋伏せ)して、バックを違う色にして……」などとテキパキ説明してくれたのだが、あまり理解できないまま、「お願いします」と預けた。
12月にチレボンへ遊びに行った時、「出来ましたよ」と言って広げられた布を見た時の驚きは忘れられない。布が生き返っていた。
背景はブルーブラック・インクのような深い黒。象やメガムンドゥン(雨雲)の模様の部分を蝋伏せした上で、背景の白を黒に染め変えてある。元からあった模様は背景に埋もれてしまわないように縁取りを残してあるが、色はベージュ。「(元の)白のままだと安っちかった(安っぽかった)んで、ベージュを掛けた」と賀集さんは言っていた。
そして素晴らしいのが、「飛ばし柄」の遊び。千葉を愛する賀集さんのお気に入りの落花生、それから花や星やハートが間に描き加えられている。そして、「フレディも5匹ぐらい入れておきました」。うちのねこのシルエットが入っている! 象の間にたたずんでいたり、象と遊んでいるような姿だったり。黒ねこなのでシルエットだけでいい、という発想にも、なるほど。
戸棚の中にしまいっぱなしだった汚れたバティックが、まったく新しいバティックとして、フレッシュに生まれ変わっていた。紺がかった黒とピンク色がマッチし、花や星や落花生が間に飛んで、メルヘンチックな風景に。私へのサービスとして、フレディまで。まさかここまで変わるとは思っていなかったので、こんなになるんだ!!と心底、感動した。「バティックが汚れたり、飽きてきたら、染め変えて『お直し』すればいいんですよ」と賀集さん。
「お代は?」と聞くと、「染め職人にちょっとあげたいんで、10万ルピアで」。いやたったそれだけでは、と食い下がると、「じゃあ、テンボック職人に5万ルピアあげてください」。
このバティックを見ていると、賀集さんとの会話が鮮明によみがえる。そして、これを最初に見た時の「わあ〜〜」という感動も。ユーモア、サービス精神、染色の高い技術とセンス、最後の「お代」のやり取りまで、隅々まで、賀集さんらしい。どんな最高級バティックよりも、私にとっては大切な布だ。
「ピンクの象」
ブディ・マシナ所蔵
101cm x 228cm
2019年購入
20万ルピア
賀集由美子(スタジオ・パチェ)染め変え
2019年
15万ルピア