「100枚のバティック」、1枚目はこちら。賀集由美子さんが亡くなってから、出会った布。これまで見たことのなかったねこ柄に、「珍しい。ねこだ!」と思って購入した。
賀集さんのバティックに、ねこはあまり登場しない。自らの分身であるペンギンの「ペン子ちゃん」と対になる、「ジャワねこ先生」はよく描いていた。バティック布を腰に巻いた、ちょっと口うるさそうな「ジャワねこ先生」は、夫のコマールさんを表している。賀集さんはどちらかと言うと「犬派」だったと思う。一方、コマールさんはねこの方に性格が似ていて「ちょっとずる賢くて愛嬌がある」と評していたそうだ。「ジャワねこ先生」は、デフォルメされた、マンガのようなキャラクターのねこだ。
こちらのバティックのような「ねこらしいねこ」はほとんど見たことがなかったため、賀集さんの古くからの親友の方に「この絵は一体何なのか? スタジオ・パチェの職人さんの絵でしょうかね?」と尋ねてみた。すると、「由美子さんの絵だと思いますよ」と即答。そして、帽子をかぶったおじさんと犬のバティックの写真を送ってくれた。「これはコマールさんとゴボちゃん(愛犬)だと思います。(ねこのバティックと雰囲気が)似てますよね」。
また、以前に、プラムディヤ・アナンタ・トゥールの翻訳者でもある押川典昭先生から、賀集さんが制作したというねこのバティック写真を送っていただいたことがある。
添付の写真は20年くらい前に、当時インドネシアに留学していた増原綾子さん(現・亜細亜大学教授)が帰国に際して、わが家の猫(ArjunaとSetyawati)をモチーフにして、座布団カバーの制作を賀集さんに依頼し、おみやげとしていただいたものです。座布団カバーにするのはもったいないので、リビングにタペストリーのようにして飾ってあります。
このねこのバティックとも作風が非常によく似ているので、同じ時期、すなわち、かなり初期のころに作られた物だろうか。もしかしたら、押川先生のねこのバティックを試作する過程で生まれた物なのかもしれない。
特筆すべきは、ねこの毛などに見られる「イセン」(バティックの線描き)の細かさ、繊細さ。2匹のねこの周りにあしらわれた草花の完璧な配置。チレボンらしい「ワダサン」(雲のような形の岩のモチーフ)もある。色は紺とグレーの繊細な2色で、この2色によって「黒ねこと白ねこ」という色の違いを表現しているのも面白い。
ほぼ正方形の中に、円。なぜ、四角い絵にはせずに、中に円を描いたのだろうか。不思議で賀集さんに聞いてみたいが、周りの縁が無駄なようでいて無駄でなく、まるで丸窓から外を見たような、または望遠鏡をのぞいたような面白い効果を与えている。このまま白い壁に飾っても、すでに額縁があるような決まり方だ。全部が白背景だと、飾るには、額縁を使わないと決まらない。
小作品だが、見れば見るほど、素晴らしい。完璧な世界が出来上がっていて、見飽きることがない。しかし、このバティックを見ていると、これだけねこが身近なインドネシアで、ねこ柄のバティックがあまりない、という理由がわかる気がするのだ。ねこの毛のもふもふ感と顔立ちのかわいらしさを同時に表現するのはなかなかの難題、難技だ、と思われる。
これは賀集さんが、うちのねこのフレディ(黒)と甚五郎(白)をバティックにしてくれたんだ、と思うことにする。
「2匹のねこ」
賀集由美子(スタジオ・パチェ)作
29cm x 29.5cm(円の直径20cm)
2002年ごろ制作? 2022年購入
2750円