[ジャカルタねこ物語]モモ② 僕はモモ

[ジャカルタねこ物語]モモ② 僕はモモ
ヤシの葉で遊ぶ

 僕は「みっどぷらざ」と呼ばれているビルの辺りで生まれた。地面と木が少し。あとは硬いコンクリート。大きい人間と車が、明け方から夜遅くまで、ひっきりなしに通っている。しんとするのは夜中だけ。

 僕を産んでくれたお母さんやきょうだいたちと一緒で幸せだったけど、いつの間にか、皆、どこかへ行ってしまった。ひとりぼっちになった。お腹は空くし、危険がいっぱいで、不安でたまらない。僕の体はまだ小さいし、すばしこく動けないし、ごはんも自分で捕ることができない。僕にできるのは、「助けてー!!」と、力を振り絞って、できる限り大きな声で叫ぶだけ。

 大きい声で叫ぶと、びっくりしたようにこっちを見る人や、どこにいるのか探そうとしてくれる人もいた。僕を見付けた人が大きいカリカリを置いてくれたので、食べた。でも、ずっとお腹は空いているし、怖かった。体は泥だらけになった。

 歩いていたら、いつの間にか、高い塀の上に出ていた。「助けてー!!」、できる限りの大声で叫び続けた。そしたら、袋を背負って歩いていた人が立ち止まって、僕を見ていて、塀から下へと下ろした。でも、ここは来たことのない場所だし、隠れる所がない。そうだ、あっちの方へ行こう。さっき、塀の上をうろうろしていた時に、大きいねこたちの姿が見えた。隠れる場所がありそうだし、お母さんもあっちへ行ったような気がするんだ。

 段から下へ降りて、あっちへ走って行こうとしたら、僕を塀から下ろした人が大声で何か言いながら僕を持ち上げ、段の上へと戻した。僕はあっちへ行きたい。段を降りて走りかけたら、また戻された。僕はあっちへ行くんだ。段を降りて、今度こそ走って行こうとしたら、その人は僕を拾い上げて、自分の持っていた袋の中へ入れた。蓋をされて真っ暗になった。僕は鳴くのをやめた。

 袋は揺れ、その人は歩いて行く。ある場所に着いてから、外へ出されて、ごはんをもらった。久しぶりのごはん。うなりながら食べた。それからしばらくしたら、また袋の中へ入れられて、蓋をされた。その後、ものすごく大きい音を立てながら、猛スピードで動き始めた。

 動いたり、止まったり、また動いたりして、ようやく完全に止まった。そのまま袋は揺れて動き、なんかブーンという音の中でじーっとしていてから、また動いて、何かの中へ入った。そこで、袋の外へ出された。そこは変に閉ざされた狭っ苦しい場所だったけど、暑いとか寒いとか風が吹くとか雨に濡れるとかなくて、安全そうではあった。大きいねこたちが僕を見ている。僕は大きいねこも人間も平気だ。その中に混じってやってきたんだから。

ここに来た日

 大きい人間がもう一人、来た。二人で何か話していて、急にバタバタし始めた。まずは、お皿に入れたミルクをもらった。もっと噛みごたえのある物、もっとおなかにたまる物が欲しい。それから、網の家みたいなの、砂を入れたトイレが置かれた。疲れたので、寝てしまった。

 翌日、また別の人間が来て、皿に入れたごはんをくれた。そう、これこれ。こういうのが欲しかったんだ。取り返されたら嫌だから、ごはんは手で押さえて夢中で食べた。食べている時に背中に触ってくるから「取るなよ!」って、うなってやった。これだけじゃ足りない。もっと、もっと。お代わりをもらって、ようやくおなかがいっぱいになった。満足。幸せ。言葉にならない。

 それからは、小さい声でちょっと鳴くと、このごはんが出て来るようになった。もう、大声で叫ばなくていい。普通に「ごはんちょうだいー」って言うだけでいい。なんて楽なんだろう。

 ここは安全な場所みたいだ。僕の寝ている場所の向こうにも、にぎやかな別の場所があって、その向こうにも別の場所がある。最初は、何かあるとすぐに寝場所まで逃げ帰っていたけど、ちょっとずつ探検してみて、全部を探検し終えた。

 この場所に、ねこは5匹いる。その中で、オスは1匹だけだ。僕と同じ白黒で、ものすごく大きい。こんなに大きなねこは、みっどぷらざにはいなかった。すらっと延びた手足に、均整の取れた体。跳躍して、高い所にも上れる。格好いいなぁ。あこがれの存在。

大人と同じ物を食べます
あんなに大きくなりたいなぁ

 僕の寝場所に置いてあるのは小さいカリカリだけど、外には大きい粒のカリカリが置いてある。大きすぎて、噛めずに口から落ちちゃったりしたけど、頑張って口の中へ入れた。赤ちゃん扱いは結構です。ぼやぼや、子ねこなんてやってられません。生きていくには、一刻も早く大人にならないといけない。僕は、大きくて立派なねこになりたい。

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