リボンと花で美しく飾られた鳥かご。しかし、どの鳥かごも空っぽだ。開け放たれた戸口に留まった鳥が外に向かってさえずっていて、音符は花へと変わり、空中に舞う。リボンの上で羽根を休める鳥、翼を広げて飛ぶ鳥、どの鳥も楽しそうだ。花とリボンが画面いっぱいに広がり、濃紺をバックにピンクをアクセントにした幸せな色合い。まるで「楽園」のような光景だ。
これは「チレボン・バティックお買い物ツアー」主宰者として2019年10月にカトゥラ工房を訪れた時、参加者の方の広げていた物が目に留まり、値段を聞いて即買いしたバティックだ。
その時の心境にぴったりハマる布、というのがたまにある。これはまさにそうだった。その時の私のテーマは「自由」。いろいろなことから自由になりたい、と希求していた。ちょうどロングランしていた映画「Bebas(自由)」にも同様にハマって、数回、映画館へ通った。映画の主題歌の「Bebas lepas kutinggalkan saja semua beban dihatiku. Melayang kumelayang jauh. Melayang dan melayang.(自由、手放す、心の重荷全部を置き去りにして。遠くへ飛ぶよ、飛ぶ。飛んで飛ぶ」というリフレーンが、頭の中にずっと響いていた。このバティックを見た瞬間、「あ、『Bebas』だ」と思ったのだ。
しかし、私の解釈が間違っているかも、とも思い、カトゥラさんに「鳥の口から出た音符が花に変わっている。これはどういう意味でしょうか?」と尋ねてみた。すると、「鳥かごから出た鳥が、自由になった喜びを歌っているんです。バティックのテーマは『Kebebasan(自由)』です」と。「展示会に出したら皆が褒めてくれたけど、誰も買い手が付かなかった」と言われるので、ありがたく買わせていただいた。
鳥好きのインドネシア人らしく、鳥かごの形は様々で、それぞれ意匠が凝らされている。鳥かごを吊す紐はリボンになっていて、さらに、花で麗しく飾られている。そのリボンも花も、鳥かごから離れて自在に伸びて、布いっぱいに広がっていく。茎に付いているはずの花までもが、茎を離れて(=lepas)、きらめく星のように空中にある。絵の構成が見事だ。
カトゥラさんの描く鳥は、元々マシナ工房の下絵職人だったその画力に裏打ちされて、生き生きしている。ツバメ、インコ。様々なポーズを取っている鳥が、どれもとても愛らしい。
バティックの表現がまた素晴らしい。輪郭はわりに太めの線でしっかり描かれ、それと対比するように、中の模様は非常に細かい。すっきりした背景と太めの輪郭、繊細な模様の対比がとても良い。
鳥の胸や頭の毛、一枚一枚の葉の中には、非常に細い線が狭い間隔で引かれ、少しかすれているように見える所もある。この「かすれ」が、まるで筆で描いた絵画のように見えて、面白い効果を上げている。
「この線はどうやって描くのか?」とアリリ工房のアリさんに聞いたところ、「一番細いチャンティン、0号を使って描く(チャンティンは蝋描きの道具で、一番細い0号から一番太い8号まである)。蝋はほんの少量で、さっさっ、と速い速度で描く。蝋の量が少ないので、蝋が足りずに、こんな風にかすれる。かすれさせるのは、わざとやっている」とのことだ。
花の中には、まるで点描画のような規則的な点が打たれ、点の多さで陰影の強弱を付けている。
絵の構成の素晴らしさ、鳥のかわいらしさ、バティック表現の見事さから、ものすごくお気に入りの一枚だ。
「空の鳥かご〜自由」
バティック・カトゥラ作
102.5cm x 271cm
2019年購入
300万ルピア(値段は購入当時)