インドラマユにあるエディさんの工房へ行くと、工房の横の路地に、出来上がったばかりの布が干してある。まだ濡れたままの布が何枚も干されていて、「あっ、新作のチャップ(型)だ!」とか「この色、いいな」とか、目を引かれる。「できるだけ新しい品が欲しい」という心理が働くのか、出来たての布は良く見えるものだ。もちろんそれだけでなく、新しいチャップや新しい色など、工夫と進化を続けている様が見えて面白い。
この日は、細かい点々が散らされた布に目が行った。これまでに見たことのない珍しい技法なのだが、この点々をどうやって付けているのかが、わからない。
ぱっと見た時には、これは「色挿し」技法だろう、と思った。色を塗る代わりに、染料を付けた筆をパッ、パッと振って、布に染料を飛ばしているのではないか。しかし、エディさんに聞くと、「(上写真)右のは、最初に薄い青色で染めてから、濃い青色で染める」と言う。濃い青に染めた布に、薄い青を散らすのではないのか。うーん。この時、実は「+62チャップ体験ツアー」を開催中。そのツアーにいた高校生のMさんが「蝋でやるのではないか?」と言う。なんと、それが大当たり!
実際に「ぱっ、ぱっ」とやる所を見せてもらった。担当はチャップ職人。チャップを押す台の上に、チャップを全面に押してから青色に染めた布を広げる。そして、筆のような、刷毛のような道具を蝋に浸し、それを布の上で振るようにして動かす。まるで雨が降るように、蝋の滴が布の上に降り注いだ。
エディさんに「やってみたい?」と聞かれ、ツアー参加者の何人かが手を挙げた。筆を手にして、次々に、布の上に蝋の雨を降らせる。
エディさんによると、これは「新しいテクニックで、実験中」。本当は、きちんと蝋伏せして色分けをしたいのだが、手描き職人の数が足りない。この技法であればチャップ職人ででき、色分けされたバティックを簡単な作業で作れる。「新聞紙でブロック(マスキング)して、一部分だけに『点々』を入れたり、丸く切り抜いた新聞紙でブロックして、丸い形に『点々』を入れたり、いろんなバリエーションが可能」とエディさん。
この技法の利点は、あっという間に色分けできること。ツアー参加者が蝋を振りかけたこの布も、その後で濃い青に染めてから蝋落としをし、たちまち仕上がった。ツアー中はバタバタしていたため、ツアーが終わってから、エディさんが出来上がりの写真を送ってくれた。
賀集由美子さんの原画から絵を取って作った新作チャップだ。魚や亀の泳ぐ海の中。チャップに描かれた泡と、蝋を降らせて作った「点々」が絶妙に合っている。一面に広がる青の濃淡が、深い海の中をのぞいているようだ。ツアー参加者の手が加わったため、「点々」は均等に入っておらずバラバラで、一部分に固まっていたりする。その不揃いさがなんとも良い。
すっかり気に入って「この布を買いたい」と言ったのだが、エディさん的には、これは「失敗」のようだった。「これはjelek(良くない)。もっと良いのを作って送るよ」と言う。「いや、これがいい。これが好きなんだ」と主張し、ジャカルタへ送ってもらった。
蝋をぱらぱらっと振りかけるだけで、こんなに雰囲気が変わるとは……。筆で、書道のように字を書いたり、絵を描いたりすることもできそうだ。チャップとの組み合わせで、また面白い可能性が生まれるのではないだろうか。
「海の中」
バティック・ビンタン・アルット作
110cm x 224cm
2024年制作
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