一目見て「何それー?!」。パッと目を引く存在感と力のある、カメラ柄バティック。小池直子さんの依頼で、賀集由美子さんが作ったチャップ(型押し)バティックだ。小池さんの「何が何でも」という熱意で1年半かけてようやく実現した。ちょうどコロナ禍中に進行していたプロジェクト。小池さんの力で「賀集さんの作品」として世に残ることになった。
賀集さんは「のれん」「ペンギン」など、いろんな「マイブーム」がある中で、最後に夢中になっていたのは、チャップ(型)。「自分の好きな絵で『マイ・チャップ』(My Cap)を作ろう!」という「チャップ・プロジェクト」を立ち上げ、チャップ・デザインの勉強会も開いてくれた。
私が「チャップを作りたいけど、絵を描けません」と言うと、「(私が)描きますよ」と言ってくださった。「じゃあ、『ねこ』と『万年筆』柄で!」とお願いしたが、それは結局、実現しないままで終わった。
その「マイ・チャップ」を完成させたのが、小池さん。「無理やり、ゴリ押しで」と小池さんは話すが、完成させるにはそれだけの熱量が要ったことは、よくわかる。
小池さん「賀集さん、作ってくださいよー」
賀集さん「うーん、そうだよねー」
という感じだったらしく、その情景は思い浮かぶ。
小池さんが依頼したのはカメラ柄のチャップ。ジャカルタ写真部に所属する小池さんは、インドネシアに来る前は、大阪でカメラクラブに所属していた。愛用は、オリンパスのPEN-F。
ある日、友人の写真家の作品展へ行くと、着物姿で京都から来場した人がいた。その帯がカメラ柄だった。粗い麻生地に藍染めで、前と後ろに1個ずつカメラが手描きされており、その「粋さ」にひとめぼれ。「自分も欲しい」と思ったが、その夢はかなわなかった。その後、インドネシアに来てから、「バティックで作ればいいじゃん?」と思い付いた。
「カメラ柄のチャップ」と聞いて、賀集さんは最初、「面倒くさい、よくわかんない」といった反応だった。それを小池さんは、「インドネシアだし、簡単にできるでしょ!」と押しまくった(「後で、自分でチャップ体験をしてみて、簡単にはできないことがわかりました」と小池さん)。
賀集さんの「ゆかたーー?! 浴衣にするの? 年1回しか着ないじゃん」という反応にも屈せず、カメラの参考イラストを大量に送ったり、ペンギン・マーケットでジャカルタに来た賀集さんをつかまえて、デザイン画を渡したり、連続文様になっているバティックの写真を送って「これ系でやってください」とお願いしたり。「1年半ぐらい『ヤイヤイ』言って、ようやく出来た」と言う。
2018年から話をしていたが、2020年にコロナ禍が始まり、小池さんは同年3月、いったん日本に帰国。日本とインドネシアに分かれて、やり取りは続いた。「チャップが出来た」と賀集さんから連絡が来たのは、3月7日。
小池さんはそれ以前に、チレボンのアリさん工房で、手描きのカメラ柄バティックも注文して作っている。原画はハンカチのデザインを写した物で、カメラは横一列、縦一列に並んでいる。
それに比べて、賀集さんのデザインしたチャップは、布の上で連続させていくチャップの特性を活かし、不思議な不規則性を感じさせる模様になっている。パッと見て、つなぎ目がわからない。チャップだとわからない。カメラとカメラの間にフィルムを置いたのも、賀集さんのアイデアだ。
「3枚ほど試しに布作ってみますね」。ここから、賀集さんの実験が始まる。
実は、小池さんがオーダーしたのは、浴衣にするための紺3枚、赤2枚の布5枚。この5枚は出来上がったのだが、賀集さんはそれ以外に、どんどん、いろんな物を作り始めた。「こんなん出来ました」「こんなん出来ました」と、次々に写真が送られて来る。勝手に進んでいくので、小池さんは「面白いけど、どこまでやるのー?」と思ったそうだ。
小池さんがいったんインドネシアに戻った2020年11月に、カメラ・チャップも含めて、出来上がった布を全て買い取った。縁は格子柄、いろいろな色バリエーションの風呂敷は、賀集さんがおまけに付けてくれた。
実物を見て、「期待通りの出来。帯のカメラは、もう少し大きかったと思うけど、賀集さんのチャップのカメラは、大きすぎず、小さすぎず、バランスがいい。配置もうまい。センス、デザインが良くて、見ていて飽きない。思った以上に良い物を作ってくださった。ずっと使える」と大満足。賀集さんが余分に作ってくれた布は、帰国の決まったジャカルタ写真部の友達に配るなどして、その布でシャツを仕立てた人もいる。
なんとも格好良く、面白く、チャップの特性を十分に活かし、また、賀集さんらしく。色の濃淡による陰影と立体感も見事だ。つくづく感心し、見入ってしまう。これは個人のオーダーなので、あまり知られていない作品だろう。こんな「賀集さんとの共同作品」、自分の好きな柄での「マイ・チャップ」を作れた小池さんがうらやましい。
小池さんは、自分のカメラ・チャップを再び、インドラマユのエディさんの工房に預けた。チャップをどうするか、まだ決めていないが、「エディさんにあげようかな? いずれ、インドネシアの物になっていくと思う」。
カメラ柄のチャップ・バティック風呂敷
賀集由美子(スタジオ・パチェ)作
111cm x 113cm
2020年制作
無料(小池さんからいただきました)
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