インドラマユはチレボンから約50キロの港町。ここのバティックが好きだ。手描きの精緻さと華やかな色合いはチレボン・バティックにかなわないけど、素朴さと独特の面白さがある。何より、値段が安くて気軽に使えるのが良い。ソファに掛けたり、テーブルクロスにしたり、ベッドカバーにしたり、旅行に一枚持って行ったり。
気軽にハサミを入れられるので、服に仕立てても良い。以前、日本人のバイヤーさんから、「チレボンの手描きバティックはあまりにも精緻なので、プリントのように見えてしまう。むしろインドラマユ・バティックの方が、ぱっと見て手描きだとわかるので、『手作り』感があって日本人に好まれる」と、聞いたことがある。
高品質のバティックならチレボンになってしまうが、手の悪い(粗い)手描きバティックをチレボンで買うよりも、インドラマユで良質の手描きバティックを買った方が良い。その方が絶対にお値打ちだ。
インドラマユの良質の手描きバティックというと、私はもっぱらアアットさんの所で買う。インドラマユでは、夫が長期間、漁に出ている間、妻が内職として家で蝋描きをする。アアットさんも漁師の妻だ。非常に手が良く、フリーハンドでスイスイ蝋描きをする。問題は、ほかの仕事で忙しいと、あまり蝋描きが進まないこと。訪ねても、いつも豊富に商品があるとは限らない。2022年10月にアアットさん宅を訪れた時も、「宿題がいっぱい」と、蝋描きが途中の布を見せてくれた。
この時に初めてお会いしたのがアウリアさん。アアットさんの息子と結婚し、スマトラ島ランプンから嫁いで来た。インドラマユに来てまだ約1カ月だが、すっかり溶け込んでいる。バティックのことは全然知らず、習いたいんだ、と話していた。
バティック布を戸棚から出してもらって広げて見ていた時、アウリアさんも一緒に見ていた。そして、ある布を開いて「バナナ!」と言う。アアットさんに言下に「違うよ」と否定されていたものの、そう言われてみると、もうバナナにしか見えない。バナナの行列だ。本当は何なのか、と言うと、浮き彫りの模様とのことだ。
「Rajeg Wesi」という名前の伝統模様で、ジャワ語で「鉄柵」という意味。頑丈な鉄柵は家を囲み、住人を野生の動物や邪悪な生き物や危険から守る。人間に必要な「aman dan nyaman(安全で快適)」を象徴するモチーフだと言う。
伝統模様はいかにも鉄柵らしく、縦のストライプのような直線模様なのだが、それには「飽きてきた」ため、アアットさんがモディフィケーションしたとのことだ。直線は斜めの線に変え、浮き彫り模様の間には花模様を入れた。
色合いは水色が効いて、さわやかだ。濃紺と水色の2色の浮き彫り模様が、いろんな熟れ具合のバナナに見える。
「鉄柵」(Rajeg Wesi)
アアット作
105cm x 228cm
2022年購入
30万ルピア(値段は購入当時)