[100枚のバティック](13)アアットさんのカーテン

[100枚のバティック](13)アアットさんのカーテン

 インドラマユのバティック職人、アアットさんの家を初めて訪ねた時のこと。窓に掛かっている手作りのカーテンに目を奪われた。大小の魚やタツノオトシゴ、クラゲが楽しそうに海の中を泳いでいる。間にはサンゴ、波模様、ヒトデ? どの魚も表情豊かで生き生きしていて、まるで笑っているようだ。魚の口から小さなあぶくが出ているのもかわいい。

アアットさん宅のカーテン

 さすが漁村のインドラマユらしい柄。そして、アアットさんが自由に描いた感じがとても良い。同じ「海の生き物」柄でも、伝統模様の「イワック・エトン」の隙のなさに比べて、非常に緩い。その緩さが魅力的だ。蝋でお絵描きした、という感じ。大漁祈願の「イワック・エトン」の厳しさに比べて、緩くて楽しい世界が広がっている。

 そしてびっくりしたのが、バティックをカーテンにするという発想だ。あっという間に色あせてしまうではないか。私はバティックを飾る時、部屋の中で日が当たらない場所はどこか、と苦心して探しているというのに、なんと、カーテン! 

 「色あせたら、また新しいのを描けばいい」という発想なのだろう。これはなかなかに衝撃的だった。「布は使う物で、どんなに大切にしていても、いずれは色あせていく。まぁ、もしそうなったら、また新しい物を買えばいいわ」、そう(ある程度)達観できるようになったのは、アアットさんのバティック・カーテンを見たことも大きかったように思う。

 この柄が一発で気に入り、「同じ物を作ってほしい」とアアットさんに注文した。出来上がり、賀集由美子さんから送られて来た布を見て、びっくりした。まったく違う布に見えた。賀集さんはきっと、思い通りの色が出るまで、何回も何回も染めてくれたのだろう。元の安っぽい赤ではなくて、深いえんじ色になっていた。その時はイメージと違いすぎて、「注文と全然違う」というようなことを言ってしまったのだが、今見ると、「ピンクの象」の染め変えと同じで、バティック布としてのクウォリティーが格段に上がっていることはよくわかる。もう購入してから10年余り経つが、色あせず、今も深いえんじ色のままだ。

 アアットさんの描いた海の生き物たちは、元のカーテンの模様より、もっとぎっしりと描き込まれ、絵としての完成度も上がっている。この模様はそれから、アアットさんの定番の人気柄になった。賀集さんの「ペン子ちゃん」が混じって泳ぐコラボ柄も生まれた。私の姉のスペシャル・オーダーで、姉一家が海の中を一緒に泳いでいる絵のバティックを作ってもらったこともある。

 横柄の多いバティックの中で、これは縦柄なので、飾りやすい。棒に掛けて飾ると、海がずっと奥深くまで続いているような迫力がある。

アアットさんの「海の生き物たち」バティック

「海の生き物たち」
アアット作、賀集由美子(スタジオ・パチェ)染色

2021年購入?
価格不明(記憶なし)

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