[100枚のバティック](23)賀集さんのインドネシア地図をもう一度 ㊦

[100枚のバティック](23)賀集さんのインドネシア地図をもう一度 ㊦

 ついに完成した。2023年7月31日、チレボンのアリさん工房で、「賀集由美子さんのインドネシア地図バティック」複製を受け取った。インドラマユとチレボンの間を、原画や布が行き来し、作業が開始してから約4カ月後。

完成したインドネシア地図バティックを持つアリさん(左)とワワンさん
完成したインドネシア地図バティックを持つアリさん(左)とワワンさん

 「3枚あるから、好きなの2枚を選んで」とアリさんに言われ、「え? どう違うの?」。そして、見比べてびっくりした。原画はもちろん同一なのだが、色分けや模様がほんの少しずつ、しかし、ほぼ全てにわたって、違うのだ。

 アリさん工房が行ったのは、染色から蝋落としまで。あまり目立たないが、紺、青、グレーの3色が使われている(「チレボン銀河鉄道コースター」の色と同じ)。つまり、蝋落としは1回だが、2回の蝋伏せと3回の染色が行われている。賀集さんが色違いで作ったインドネシア地図6枚のうち、アアットさんにプレゼントした地図の色合いがこれだ。そのオリジナルの色に近付けようとしたのが見て取れる。

 海が紺、インドネシア領の陸地が青、それ以外の陸地(マレーシア領など)はグレー。島々を取り巻く海一面に描かれた、たくさんの魚や亀、船、ペン子ちゃんたちは、紺、青、グレーの3色。この色分けが微妙に違う。

 「間違い探し」のように1つずつ見ていくと、クジラの顔が紺だったり、グレーだったり。漁船の模様と色が異なっていたり。さすが、「同じ物は一つとしてないバティックだ」と感心した。

間違い探し、その1
間違い探し、その1。ラマレラのクジラ漁
間違い探し、その1
クジラの模様や色分け、船の帆のイセンなどが違う
間違い探し、その2
間違い探し、その2
間違い探し、その2
海上で暮らす人々

 色分けは、蝋伏せ(テンボック)の職人さんに「インドネシア領は青、それ以外の島はグレーで統一して」とだけ指示し、あとは職人さんの裁量に任せたと言う。「どれも全部、同じに、色分けして」と言うと、職人さんが途方に暮れてしまう。それよりも、職人さんのその時の気分でやりたいようにする、という方が良いそうだ。「無理矢理やらせても結果は良くない」とアリさん。

 全体的に、非常に素晴らしい出来だと思う。アアットさんの描く線は、生き生きしていて、独特の力強さがある。アアットさんのお姉さんの手になる線描きの模様は丁寧で、ユーモラス。アリさん工房による色分けと染色も素晴らしい。

 額縁のような白い縁模様は、アアットさんの所で蝋伏せをしたが、全体的に蝋が割れてしまった。「蝋伏せをしてから染色までに時間がかかりすぎたからだろう」とワワンさん。インドラマユとチレボンで布のやり取りをしているし、お互いの都合もあるから、多少は仕方がない。

 濃紺の海を背景に、インドネシアの島々と、多様で豊かな海の生き物たちが浮かび上がる。壁に貼って眺めてみると、改めて「インドネシア、大きいなぁ」と感じる。世界最大の島嶼国インドネシア、そこに流れ着いた私たち。賀集さんの集大成ともいえる、素晴らしい作品だと思う。

廊下に貼ってみた
廊下の壁に貼ってみた

「インドネシア地図」(Peta Indonesia)
アアット、アリリ工房の共作
(アアット、賀集由美子さん=スタジオ・パチェ=の共同作品の復刻)
101cm x 262cm
2023年7月

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